今後の中東地政学リスクの展開予想

当面の焦点は、米国とイランの間で何らかの軍事的衝突が発生するか否かだろう。戦闘が起きるなどすれば、イランは世界の原油輸送の大動脈といわれるホルムズ海峡の封鎖に動くとの見方は多い。その場合、供給への懸念から原油価格は上昇し、徐々にインフレ懸念が高まりやすい。

インフレ懸念が高まると、各国の金利には上昇圧力がかかる。足許、世界経済は米国を中心とする低金利環境に支えられている。本格的に金利が上昇するとなれば、世界経済を支えてきた米国の個人消費が陰るなど、グローバルに減速懸念が高まる可能性がある。ホルムズ海峡を通って世界各国に供給される原油量は全体の2割程度に達する。イランが世界のエネルギー市場に与える影響は軽視できない。

1月上旬の時点で、米国を中心に株価は不安定ながらも大きく売り込まれる展開にはなっていない。実際に戦闘が発生する展開を真剣に警戒し、質への逃避に走る市場参加者はまだ多くはないようだ。

その背景には、イランは米国との衝突には耐えられず、さらなる経済環境の悪化も避けなければならないといった見方があるだろう。また、トランプ大統領としても、大統領選挙が近づく中で中東情勢をさらに混迷させ、先行き懸念を高めることは得策ではない。一部の世論調査でも、トランプ氏のイラン政策への懸念が増えている。当面、米国とイランは口先でのけん制や批判、警告を続ける可能性もある。

そうした見方が、株価の下落をとらえて短期目線で利得を狙う買いの動機となり、世界的に株価を支えていると考えられる。いますぐに中東の地政学リスクが拡大し、原油価格の急騰などを通して世界経済が混乱に陥るリスクは抑制されているといえる。

ただし、偶発的な衝突の可能性は排除しきれない。シーア派の民兵組織などの反米感情が高まり、民衆の暴動やテロが発生することも考えられる。それは中東の地政学リスクを追加的に上昇させ、原油価格の上昇要因となるだろう。米国とイランの関係悪化は世界経済の先行きを左右する無視できない不確定要素であることは冷静に考えなければならない。

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