読解力低下の要因は、学校PC不足かスマホや読書減か

以上のような今回PISA調査における読解力急落に対して、学力の反転上昇へ向けた対策を練るには、当然、その要因を明らかにせねばならない。しかし、論者の主張を読んでみると、自分の立場に都合の良い要因説ばかりが目につく。

デジタル時代に対応した学力を伸ばすためとして、小中学校の児童生徒1人あたり1台のパソコン配備を目指している文部科学省は、今回の調査で、デジタルデータの探索をする課題が多くなったことから、「日本の生徒は機器の操作に慣れていないことが影響した可能性がある」とマスコミの取材に対してコメントしている。

今回、調査対象となった児童生徒が脱ゆとり教育の世代である点を考えると教育行政の失敗と反省してもよさそうであるが、そういう点に関しては、おくびにも出さない。

一方、新聞の社説や有識者など活字文化の意義を強調したい論者は、読書を肯定的にとらえる生徒ほど読解力の点数が高いという結果から、スマホの普及などで読書量が落ちているため、読解力の点数が低下したという議論が見られる。

しかし、全国各地の学校では「朝の読書運動」に取り組んでおり、毎日新聞が毎年行っている学校読書調査でも、小中学生の書籍に関する1カ月平均読書量はこの10年間以上増加傾向にある。そもそも読書量が落ちているわけではないので、読解力低下の説明にはならない。

本連載の昨年9月11日の記事「バカでキレる子を量産する『ネット依存』の怖さ」でふれたように、日本の子どものスマホ使用時間は欧米と比較するとまだ短いほうである。スマホの影響で読解力が落ちるとしたら欧米各国の方が大きく落ちるはずであり、日本はむしろ相対的に地位が上昇してもおかしくない。そうした意味で今回の読解力の点数低下をスマホの悪影響に帰するのは無理がある。

元文科省事務次官・前川喜平氏の鋭い指摘

筆者が不思議に思うのは、メディアなどの論評が今回の結果の要因が、日本の高校生の学力が低下したことによるものではなく、むしろ、OECDによる学力の評価方法が変わっただけかもしれないと少しも疑わないことである。どの国で読解力の点数が上がり、どの国で下がったかを調べて、日本の急落の原因を探ろうという視点を持つ者もいない。

今回のPISA調査の結果についての要因論をいろいろ読んでみた中で、注目すべき論評がひとつあった。それは、元文科省事務次官で初等中等教育局長だったこともある前川喜平氏が、東京新聞の「本音のコラム」に書いた「PISA2018」という短い記事である(2019年12月8日)。

「そもそも読解力テストは(国ごとの)文化バイアスが大きく出る。18年の成績低下は、単に(課題の)問題文が日本の生徒になじみのない内容だったからかもしれないのだ。3年後には成績急上昇ということもありうる。要は3年スパンで上がった下がったと一喜一憂しないことだ。少なくとも『授業時間をもっと増やせ』などという暴論が暴走しないよう気をつけよう」

上述のPISA調査とゆとり教育との関連もこの記事は踏まえており、この見解と合わせ、かつて直接の当事者だった人、しかも今は組織の立場から自由になった人の発言だけに説得力がある。