いよいよ、秋の行楽シーズンの到来である。家族や仲間と泊まりがけで遊びに出かける機会には、ホテルや旅館などの宿泊施設やレストランのクロークなどに、手荷物を預けることもあるだろう。
荷物を預けている間に、中身が壊れてしまったり、貴重品が紛失したりなどした場合、その紛失や破損が「わざと」行われていようと「うっかり」生じた不幸な結果であろうと、宿泊施設は、損害賠償(弁償)の責任を負わなければならない。
宿泊施設が責任を免れるケースがあるとすれば、地震や水害など「不可抗力」が原因で手荷物が損害を受けた場合であると、商法594条一項は定める。
その一方で、隣の595条には、現金や有価証券のほか、「高価品」については、宿泊客がその種類や値段を宿泊施設に告げたうえで預けた場合に限り、紛失や破損について責任を問えると書かれているのである。つまり、財布を預けるなら、少なくとも、およそいくら入っているか申告しておかない限りは責任を問えないということだ。
ただ、貴重品の値段まで申告して預ける宿泊客が、実際にどれほどいるだろう。そもそも「高価品」とは、具体的に何円以上の品物を指すのだろうか。
民事トラブルの解決に精通する久保内統弁護士は、「金額などの厳密な基準は特にない。ただ、595条の文言が『貨幣、有価証券其他ノ高価品』とあることから、手形などの証券類に準ずる程度の、市場での換価価値が高い品物を『高価品』として特別扱いにしていると考えられる」と説明する。
具体的には、宝石や貴金属、貴重な骨董品などが考えられる。
とはいえ、最高裁判所の判例など、客観的な基準が示されているわけではない。そういえば、貴重品の紛失や破損をめぐり、ホテルや旅館を相手取って宿泊客が裁判を起こしたという話は、ほとんど聞かないではないか。銭湯やレストランなどでは、貴重品は利用客が携帯・管理するようにして、店側は預からない扱いにしている場合も多い。
一方、ホテルの手荷物預かり問題で判例がほぼ皆無である現状につき、前出の久保内弁護士は、「ホテルという業態にとって、宿泊客との間のトラブルで裁判にまで至ったという評判は、イメージ戦略的に好ましくないとの意識がある」と話す。