胃カメラの方ががんの早期発見に優位だ

それでは、なぜそのような指針になっているのでしょうか。国のがん対策は死亡率をエビデンスとしており、そのデータがバリウム検査を受けた人のものしかないからです。「1~3年以内にバリウム検査を受けた人の死亡率が、受けなかった人に比べて60%減少した」というデータがあります(がん検診のあり方に関する検討会中間報告書~乳がん検診及び胃がん検診の検診項目等について~平成27年9月)。

たしかに、バリウム検査を行う意味が全くないというわけではありません。バリウム検査でも、粘膜下層まで進行したがんであれば発見することができます。粘膜下層まで進行していても、手術を受ければ大概の場合寛解します。

とはいえ、バリウム検査は約80年前、胃がんのメカニズムが分かる以前に開発された古い検査で、日々進化する胃カメラの精度にはかなうはずもありません。体の外側からレントゲン撮影するバリウム検査より、鮮明に胃の内部を確認することのできる胃カメラ検査の方が早期発見に優位であることは明らかです。

また、人件費の問題もあります。胃カメラ検査は医師しか行うことができませんが、バリウム検査は医師のほかレントゲン技師も行うことができます。そのため、コスト削減のためにバリウム検査のみを行う医療機関も多く存在するのです。

今の胃カメラは苦しくない上に機能も充実している

時々、「昔受けた胃カメラの検査が苦しかったのでバリウム検査を受けたい」という方がいらっしゃいますが、最新の機材では内視鏡の直径は数ミリまで小型化されています。たしかに数十年前、登場したばかりの胃カメラは直径が数センチあり、検査は苦しいものでしたが、今では非常に小型化され苦しさはかなり緩和されています。

また、画像の鮮明度も大幅に向上しており、さまざまな撮影モードやズーム機能なども実装されるなど目覚ましい進化を遂げています。

一方、バリウム検査はこの数十年大きく進歩したといえることはなく、バリウム剤が少し飲みやすくなった程度のマイナーチェンジしかしていません。炭酸が苦手な人にとってはそれでも飲みづらいと思います。

胃カメラに比べ、バリウムが優れているといえる点はないといっても過言ではないでしょう。

胃カメラであればバリウムよりもはるかに正確に、早期のがんを発見することができます。バリウムより胃カメラの方が、胃がんの発見率は1000倍も高いというデータがあるほどです。

医学の進歩により、もはやがんは不治の病ではなくなりました。早期に発見して手を打つことで、がんは治療することができます。かつてはがんと診断されてから5年経っても生きているかという「5年生存率」というものが一つの指針として使われていましたが、今では生存率が劇的に向上し、「10年生存率」という指標もできています。