工場長のカミナリが落ちるとき

梱包されたメリーズが流れてくる最後の工程。山下は現場から様々な意見を吸い上げる。

梱包されたメリーズが流れてくる最後の工程。山下は現場から様々な意見を吸い上げる。

ただし、「何か提案しろ」と促すだけでは、すでにやる気があるメンバーをさらに提案型にするだけに終わりがちだ。どうすればいいのか。山下は「工場につきもののトラブルがよき提案機会になる」と明かす。

例えば、工場内設備のエア漏れ個所が多すぎるという課題が持ち上がったとする。議論の場を設けると、「設備が一番静かなときにみんなで工場を回ってシューという音を探す」という素朴なアイデアが出る。山下はこう返す。

「そやな。でも、いったいどれだけ漏れているのかわかっているのか? どこでどれだけ漏れているのかが一発でわかるような仕組みをつくろう」

思考停止でしらみつぶしに探すのではなく、全体像と根本原因を明らかにして、予知・予防にまでつなげる。ここまで目標を高くすれば、メンバーは嫌でも頭をフル回転させねばならない。

「上っ面だけの対策を持ってくれば全部はねます。もっと知恵を絞れ、と。二度と起こさないためにどうすればいいのか。仮説を立てて実証できれば、モヤモヤがスッキリして自信がつきますよ。これを繰り返せば提案型のメンバーになっていく。そのためにわざと議論の時間を設けています」

よき提案をするコツは、「テーブルの真ん中で仕事をする」姿勢だという。生産現場では、材料や設備などの「条件」が日々少しずつ変わっていく。ぎりぎりのところで仕事をしていると、少しの変化によって、不具合が発生してしまう。だから一番安全な場所、つまり「テーブルのど真ん中」に仕事を持っていく必要がある。

何も考えずに、「現状が一番いい場所だ」と思い込んで仕事をこなしていると、やがて山下の雷が落ちる。

「その場所を見つけ出すのがおまえの仕事や。これがテーブルの真ん中です、と言い切れるようなデータを揃えて持ってこい!」

山下が要求する水準の提案をするためには、生産の原理・原則を理解して、担当現場の設備を知り尽くす必要がある。容易なことではない。不慣れなメンバーはプレッシャーを感じるだろう。だからこそ、山下は「人間性は絶対に否定しない」と決めている。

「僕は技術の話になるとつい熱くなるので、『おまえな、ここはこの技術を使ってみるのも一案だろ!』なんて机をバンバン叩いてしまうこともあります。でも、『おまえはバカだ』とは言いません。人間を否定して人間が育つはずがないからです。何でや何でやと辛抱強く問い続けて、メンバーの頭を回させることが大事だと思っています」

知恵を絞れ、思考を止めるな。山下が繰り返すキーワードである。人間はともすると思考停止になりがちだ。そのほうが楽だから。しかし、「頭を使わない改善・革新」などありえない。

「純粋に技術の議論だったら、否定から入ってもいいんです。技術部長時代は、新商品が出た途端に『よし、みんなでこの商品の悪いところを探そうぜ』なんてやってましたよ。こうすると技術屋の思考は止まらないんです。でも、ヒューマンマネジメントは違う。今まで自分たちがやってきたやり方を否定されて嬉しい人はいないでしょう」

確かに、新しいリーダーが急に乗り込んできて、今まで自分たちが培ってきたものを否定したりしたら、仮にそれが正しくても心理的に反発するだろう。メンバーは提案どころか停滞する。酒田でも栃木でも、工場長に就任したときに山下は語りかけた。「この工場で変えちゃいけないところだけ教えてくれ。あとは一歩ずつみんなで変えていこう」と。やっていくうちに、「不変」だと思っていた部分も変えるべきだと、気づくかもしれない。リーダーに忍耐力が求められる局面だろう。

「こんなに大所帯で、一度に全員を納得させるのは無理です。最初は少しずつ元気な仲間を増やしていきます。例えば、10人中2人でも元気になると、チーム全体が元気になるでしょう。次第にそのスピードは加速していく」

研究開発出身らしい語法で、笑いながら説明してくれる山下。入社して25年。小さな改善努力を5年、10年とコツコツ積み重ねることが大きなイノベーションにつながる事例をいくつも目の当たりにしてきた。だからこそ、確信を持って粘れる。メンバー全員が知恵を絞る工場をつくり上げるために。

「絶えざる革新」を、山下は今日も大きな声と笑顔で支えている。(文中敬称略)

(永井 浩=撮影)