低価格戦略の明暗が分かれた「鳥貴族」と「QBハウス」
低価格戦略で成功したとしても、安心できない。低価格戦略で成功し続けるのは、さらに難しいのだ。
たとえば、居酒屋「鳥貴族」。全品280円というわかりやすい低価格で成長した。2017年10月に、28年ぶりに価格改定し、全品6%値上げで298円とした。たった6%の値上げだったが、既存店の売上高・客数ともに前年比で減り続けている。(以上、鳥貴族IR情報より)。
低価格戦略で成功し続けてきた鳥貴族は、酒税引き上げや原材料価格の上昇への対応、さらに従業員の待遇改善も急務だったので、値上げせざるを得なかった。しかし一方で、店舗数を急拡大したために自社店舗同士で競合が起こり、さらに、スタッフ育成が間に合わないという大きな問題も抱えていた。このタイミングに、運悪く値上げによる客離れも加わり、低迷に苦しんでいる。鳥貴族は298円の新価格を軌道に乗せるべく、サービス向上を図っている。
一方で低価格戦略を取りながら、値上げしても客が離れなかったケースもある。2019年2月、ヘアカット専門店・QBハウスは、1080円から1200円へ11%も値上げした。値上げ後の既存店売上は、値上げした2月は+9.6%。翌月3月は+9.9%。ほぼ値上げ分だけ売上が増えている。客離れは6%の予想だったが、2%に留まった(以上、QBネットIR情報より)。
「10分でカットできる」チェーンは他になかった
鳥貴族が6%値上げで客離れして、QBハウスが11%値上げで客離れがない理由は何か?
QBハウスに行く顧客は、低価格だけでなく「10分でカットできる」という点にも価値を感じている。そして業界の散髪料金が3000円のなか、大手理髪チェーンではQBハウス以外にこの価格帯の理髪店はない。だから11%も値上げしても、意外と客離れが少なかったのである。
鳥貴族は、低価格焼き鳥店が数多くあり、競争が激しい状況下での値上げだった。加えて自社店舗同士の競合や、スタッフのスキルの低下も重なった。だから客が離れたのである。
これらの低価格戦略を取る企業から学べることは、低価格戦略を継続する難しさだ。低価格戦略を打ち出しても、コスト増などの様々な要因で、いずれ価格をアップせざるを得なくなる可能性は高い。QBハウスは、他に大きな競合がいなかったために、値上げしても客離れは少なかった。しかし、長い期間で見ると、業界の競争は激しくなっていくだろう。
鳥貴族は当初、全品250円だった。1989年の消費税導入の時に280円に値上げした。この時は客離れが少なかったという。競合する低価格焼き鳥店がほとんどなかったからだ。しかし、2017年は競合が激しくなっていた。市場の競争が激しいタイミングで値上げをすると、顧客は一気に離れてしまうのだ。