▼軽減税率は導入を再考せよ

逆進性の高い消費税にこだわるな

今回の消費増税では、食料品などへの軽減税率が初めて導入されます。

私は軽減税率導入には反対の立場です。制度として煩雑であり、低所得者対策としての効果も低いと考えるからです。私だけではなく、「消費税の税率は複数あったほうがいい」と考える経済学者は日本でも、また世界でも、ごく少数といっていいでしょう。

評論家の荻上チキ氏とともに日本経済学会の会員を対象としたアンケート調査を行ったことがあります(図参照)。176人の回答をいただき、結果は「軽減税率導入に反対」が118人、「賛成」が24人、「場合によっては賛成」が30人、無回答が4人でした。見ての通り、反対する学者の割合が全体の3分の2を超えています。

軽減税率の導入については、「海外では一般的」とよく言われますが、そもそもヨーロッパでは消費税の導入以前から品目ごとに税目も税率もばらばらな、多くの種類の物品税が課されてきました。それがあまりに煩雑になってきたため、消費税として仕組みを1つに統合したのです。日本のようにそれまで個別の物品税がそこまで広範囲でなかった状態から、一斉にほぼ全品目に対して同一の税率がかかるようにした消費税とは、税としての出自が違います。

そのヨーロッパでも消費税については、単一税率化に向けた税制改革が検討されはじめています。単一税率化の利点は、税制として簡素でわかりやすくなること、標準税率を下げても十分な税収が確保できることです。日本の場合、現状では標準税率のカバレッジ(課税対象範囲)が広いため、ヨーロッパ諸国と比べ、見かけの税率に対して1.5倍程度の税収が得られています。

すでによく知られた、軽減税率の複雑さを象徴するコンビニのポスター。(共同通信イメージズ=写真)

今回の消費税率引き上げに合わせて軽減税率が導入されることになったことで、小売店では複数税率に対応したレジが必要となりました。それに対して、9月中の納期であれば補助がつくことになっていますが、注文が殺到し、納入が10月以降にずれてしまう小売店も少なくないようです。もちろんレジだけでなく、企業における会計処理も煩雑になり、消費者の側も相当混乱するでしょう。

税制とは本来、簡素でわかりやすいことをもってよしとするものです。私は軽減税率に対しては、19年10月の導入後も粘り強く再考を求めていきたいと考えています。制度を複雑化してまで逆進性の高い消費税にこだわるより、今後の税制が目指すべき道は別の方向にあるはずだと感じています。

(構成=久保田正志 写真=共同通信イメージズ)
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