中立的な役割を担う「東京電力パワーグリッド」

現在の東京電力グループのあり方が、今回の対応遅れに影を落としていないかも検証すべきだ。

記者会見に出てくる役職員が「東京電力」ではなく、「東京電力パワーグリッド」という聞きなれない会社であることを不思議に思った人も多いに違いない。実は、東京電力は2016年4月に持株会社体制に移行、「東京電力ホールディングス(東電HD)」に社名を変えた。その上で、燃料・火力発電事業を行う「東京電力フュエル&パワー(東電FP)」と、送配電事業は「東京電力パワーグリッド(東電PG)」、電気の小売りを行う「東京電力エナジーパートナー(東電EP)」を、いずれも100%子会社として分割・設立した。

電力自由化の流れで、発電事業者や電力小売り事業者が相次いで新規参入。発電から配送電、小売り供給まで「垂直統合」されていた東京電力は、川上、川中、川下に形の上では分かれたわけだ。

その分割の象徴とも言える会社が「東京電力パワーグリッド」で、他の事業者にも送電線網を解放する役割を担っている。つまり中立的な役割を担うことが求められているのだ。今回、強風によって倒壊した送電線の鉄塔や、町中の電信柱、配電線を維持管理するのは、この会社の役割なのだ。

自主的に経営できる独立性を持っていない

だが、問題は、この会社が自主的に経営できる独立性を持っていないことだ。親会社である東電HDは福島第一原発事故の処理と賠償責任を負い続けている。国が設立した「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が議決権の過半を持つ実質的な国有企業だ。

東電PGはその子会社で、原発事故への法的責任は直接は負っていないものの、収益の中から毎年1200億円余りを負担する契約を結ばされている。また、東電HDの借入金1兆円の債務保証もしている。つまり、実質国有の東電HDから自立できない仕組みになっているのだ。

東電PGの仕事の大半はインフラ事業である。送電線網を整備・保守するために多額の設備投資が必要になる。今回の台風被害でも多額の復旧費用がかかることになる。東電PGは今回の鉄塔倒壊について、老朽化などが要因ではないとしているが、この会社にとって、設備の更新は最も重要な仕事である。

要は、原発事故処理と補償という今後いくらかかるか分からない、負の遺産の一部を背負わされる東電HDの傘下にあって、利益を上げ、設備投資を続けていけるかどうか、という問題なのだ。