食事も取らずに遅くまで残業した帰り道、いつもなら“もったいないから”と買わないようなものまでコンビニで買い込んでしまった経験はないだろうか。東京大学経済学部の阿部誠教授は「残業後こそ衝動買いが起きやすいタイミングである」という——。
※本稿は、阿部誠『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
意思決定プロセス「ヒューリスティック」の構造
人間の認知機能には限界があるため、効率よく情報を処理するための単純化された意思決定プロセス「ヒューリスティック」を用いることがあります。たとえば商品をよく吟味することなく、“CMをよく見るから”“一番売れているから”といった理由で購入を決めることです。消費者がヒューリスティックを用いるかどうかは、商品に対する関与(興味)と知識(能力)が大きな要因であることが分かっています。
それでは、商品とは関係のない源泉(たとえば私生活での経験、天気や店舗などの外的環境など)から生じた“気分”は、情報処理のプロセス、そして購買行動にどう影響するのでしょうか?
以下のような状況を考えてみてください。
3カ月間、ずっと取り組んできたプロジェクトも完了して、外は桜の開花も間近な頃。気分もすこぶるよく、あなたはアウトレットモールに出かけました。「自分へのご褒美」ということで、贅沢三昧をしますか?
逆に、職場での人事評価が悪かったため昇給が見送られ、鬱々としている中、外は寒々とした雨が降り、気分が落ち込んでいるときにモールに行った場合はどうでしょう。ヤケ買いをしますか?