②「延命」にあたる治療の希望を周囲に伝えておく

次に、自分が救急患者になった時の「備え」をしているだろうか。冒頭で救急患者の激増は高齢化社会が原因と記したが、実際の救急現場ではたとえば幼児や子供の事故、急病、10代や20代の交通事故、30代や40代の脳卒中が起きている。そして50代以上はあらゆる緊急疾患でお世話になる可能性がある。私は各地の救急現場を密着取材をし、誰にとっても「他人事」でないことを実感した。

「家族の連絡先をぜひ携帯してほしい」と山上医師が言う。

湘南鎌倉総合病院救命救急センター長の山上浩医師(右)(撮影=笹井恵里子)

「急な病気やケガで一刻も早く治療しなければならない時、やはり家族に連絡し同意をとりたいです。もちろん救命のため同意なしで処置を行うこともありますが、できれば避けたい。携帯電話をお持ちでない高齢者の方などは家族と連絡がとれず困ることがよくあります。家族の電話、携帯番号、それでもつながらない時のために職場の連絡先もすぐわかると、救急医としてはたいへん助かります」

また、もしあなたが持病や服薬をしているならメモを財布に挟んでおいてほしい。救急医は患者が意識不明である時、本人の携帯電話から家族へ連絡し、家族とつながらない場合には財布をチェックするからだ。

医師が「また急変したらどうしますか」と必ず聞く理由

そしてもう一つ重要なことは、自らの“死に際”だ。今、救急現場の患者層は極端に高齢化し、70代や80代が最も多い年代になっている。

鮎川医師は「自分が急変した時に、どこまで医療行為を受けたいのか、家族ときちんと話してほしい」という。

「1回目の心肺停止を救急医療で助けたとします。回復が難しいと判断した場合、医師は残された家族に『また急変したらどうしますか』と必ず聞きます。『最期までなんでもやってくれ』というなら、それはそれでいい。本人の意思を尊重します。しかし、救急の現場では本人の意思がわからないことが多い。身内は決められない。そうなると何度でも『救命』するしかありません」

いわゆる終末期には必ずといっていいほど医療が介入する。しかし、最終段階に至って意思表示ができる人は半数に満たないという報告がある。

「意思表示をしておかなければ代理意思決定者(家族)が方針を決めなければなりません。しかし家族にとって『私の選択で(本人を)死に至らせてしまった』という感覚になるため、『治療を行わない』という選択は難しい。延命になりうる選択肢を選ぶこともあります。元気なうちに意思表示をしてください」(山上医師)