暴力を振るうのは決まって父親がいない時間帯だった

それでも、Aさんのうつ病の原因は何か、どう対処すべきか、私はご両親と話し合いを続けました。その結果、私が提案したのが、次の2つです。

ひとつは、お母さんは一切、Aさんの要求に応えないこと。Aさんが泣こうが叫ぼうが無視する。そしてもうひとつは、お父さんがAさんの対応をすることです。

Aさんがお母さんに暴力を振るうのは決まってお父さんがいない時間帯でした。お母さんも暴力のことは、お父さんに隠していたのです。また毎日忙しく働くお父さんと娘の関わりはほとんどありませんでした。

愚痴でも悩み相談でもなんでもいいので、ご両親とは何かあったらいつでも私に連絡を取れるような体制を整え、まずはAさんが昼夜逆転の生活を改めて、お父さんがコミュニケーションを取るところから取り組みはスタートしました。

そして朝起き、夜寝るという習慣が身につき、お父さんとのコミュニケーションがとれはじめた頃合いを見計らって、次に運動を勧めました。お父さんと一緒に15分から20分程度の散歩をしてみてはどうかとアドバイスしたのです。

当初Aさんは「日焼けするから」とか「ずっと寝たきりの生活だったから疲れる」と渋っていました。それなら「室内でできる軽い運動を」と話すと、お父さんとAさんは「Wii」のフィットネスヨガをはじめました。そして最初の面談から6カ月ほどたつと、Aさんはお父さんと一緒の散歩や外食ができるまでになりました。

決まった答えはないが、うつからは必ず卒業できる

そんなある日、Aさんが急激に回復するきっかけがあったのです。散歩の途中、二人は「太極拳教室」を見つけました。試しに入会してみると、Aさんがはまって、ほぼ毎日続けるようになったのです。

すると笑顔が増え、お母さんに対する言葉遣いも変わっていきました。高校は中退していたのですが、海外に留学したいという意欲を口にして、これまでの暴力をお母さんに謝ったそうです。

留学の夢はかないませんでしたが、高校に再入学し、昨年4月に大学に進学しました。Aさんは私たちのセミナーに参加した際「私と同じようなうつで苦しんでいる同級生がいる。彼女にも『うつ卒倶楽部』を紹介したい」と聞かせてくれました。

うつからの卒業に決まった答えはありません。症状、生活環境、家族関係、服用していた薬の種類や期間など、それぞれ違うからです。けれども、うつからは必ず卒業できます。そのためには焦らずにじっくりとご本人の苦しみ、そしてその原因と向き合いながら生活習慣を見直す必要があるのです。(後編に続く)

(構成=山川 徹)
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