消えた退職積立金と減価償却費

これら一連の裁判に加え、協会の体制に反発する代議員たちへの対応で協会の支出はみるみる膨れ上がったとみられる。協会運営の改善を目指すため、約100人いる代議員の一部は「有志の会」を結成。2015年から16年にかけ会計調査へ乗り出し、1億円に上る弁護士費用の支出と、その財源の大半が、協会職員の退職積立金(退職給付引当資産)と、協会が所有する建物の減価償却費から捻出されていたことが発覚した。

前出の資料によると、流用した金額は退職積立金から4100万円、減価償却費から4500万円。退職積立金は、総本部指導員に支払う目的で長年積み立てられてきた退職者のための資産である。協会関係者によると、退職金の総資産は2014年度末の1億500万円から18年度末には6500万円まで落ち込んでいる。

これらの資料を作成したのは、東京税理士会の清水高士税理士だ。2015年8月、同12月、16年1月と計3回にわたり協会の帳簿を閲覧し、その結果をまとめた。資料は全国の支部長に公開され、清水氏は「捻出は中原前会長の指導で進められたものと思われるが、当時の理事の責任も重い。理事会でどのような議論があったのか」と、財政運営を厳しく批判するコメントを付している。

この事実を受けた有志の会の数人は、2017年11月、当時の運営を担っていた理事らを相手取り、損害賠償を求めて東京地裁へ訴えを起こしている(現在も係争中)。

協会名義のカードで年400万円超を「経費」扱い

写真=時事通信フォト
インタビューに答える中原伸之元日銀審議委員=2013年03月15日、東京都千代田区

有志の会が問題視しているのは、弁護士費用だけではない。空手協会会長だった中原伸之氏は在任中の1986年~2015年に、多額のタクシーチケット代を計上している。編集部が入手した資料には、14年2月~15年3月にかけて使用したタクシーチケット代の内訳が書いてあり、その総額は163万6510円に上る。

会長の出席を要する協会の行事は、総本部(東京都文京区)で開かれる年1回の定例社員総会や年2回の定期理事会、国内外の選手を集めて行う全国合宿や協会主催の全国大会など年10件ほど。協会関係者によると、都外へ出るような長距離の会長公務は、1年を通してほぼないという。163万円分のタクシー代は、一体どのような目的で使われたのだろうか。

また、資料では、同じ時期に専務理事を務めていた森俊博氏による協会名義のクレジットカード(コーポレートカード)の使用額も明らかにしている。2014年3月~15年3月の1年間で支払った総額は438万6078円だった。内容は「旅費交通費、タクシー代、宴会等」となっているが、これとは別に現金でも約100万円の経費を計上している。年875万円の給与を合わせると、森氏1人に当てたものだけでも年間1400万円もの支出がなされている計算だ。

清水税理士がまとめた空手協会の帳簿閲覧結果の一部。中原氏のタクシーチケット代は約164万円、森氏のクレジットカード使用額は約439万円となっている