具体的には、100円ショップで購入できる「+2.0の老眼鏡」をかけて、2メートル以上遠くを5分間見る。メガネやコンタクトレンズをしている人は、その上からかければいい。「+2.0の老眼鏡」は手元を見るためのものなので、2メートル先には焦点を合わせることができず、ぼんやりした画像しか見えないが、これでよい。つまり「雲霧法」は、目のピント合わせをしない時間をつくることで目の緊張をときほぐすもので、5分後には、かける前より見えるようになっているのだ。
ホットアイと雲霧法の2つは、ピントを合わせる能力に対しての効果なので、角膜(黒目の部分)の形のゆがみによって生じる乱視には、あまり効果がない。
ノーベル賞博士が開発したトレーニング
そこで乱視の人および、検査まで1日以上の時間があるなら、試してほしいのは「ガボール・アイ」だ。
ガボール・アイは、これまでの2つのような目の筋肉の状態や血流をよくする方法ではない。目で見たものを処理する脳の「視覚野」の機能を上げるものだ。
目は眼球というレンズでとらえた情報を脳で処理し、見えたものを認識している。「見る」という行動は、目と脳の緻密なネットワークや共同作業で行われていて、脳は目のレンズではかすんだり欠けたりして、はっきりとらえていない部分も推測して、像を補完している。たとえば、汚れたガラス越しに外の景色をながめるとき、外の景色に意識を集中するほどガラスの汚れは見えなくなる。写真にとれば一目瞭然なその汚れを、脳が自動で補正してくれているのだ。
そこで、脳のこの「画像を補正する力」をさらにトレーニングすることで、近視や老眼でぼやけた画像もよりはっきり認識でき、視力は上がることになる。
具体的には、「ガボール・パッチ」といわれる輪郭のぼやけた特殊な縞模様が並んだ画像の中から、同じページに同じ形のものを探すというトレーニングである。
「ガボール・パッチ」は、光の波長をガボール変換という数学的な処理を行うことで生まれた図形だ。開発したデニス・ガボール博士は、ホログラフィーの発明で1971年にノーベル物理学賞を受賞した人で、「ガボール・パッチ」はもともとは視力回復のために開発されたものではなかった。しかし、この画像のぼやけ方が、脳の視覚野を刺激するということがわかり、アメリカではいくつもの研究報告が行われている。