「さくら」に引っかかる人々

この頃は、まだ一般的な人々のインターネットに対するリテラシーが低いことが問題になっていた時期で、この手のさくらサービスに引っかかっていた人たちも少なくなかった。その後、出会い系サービスを通じた児童買春が社会問題化したこともあり、2003年9月に、いわゆる「出会い系サイト規制法」〔正式名称は「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」(※)〕が施行される。さらに、2008年12月に同法の一部が改正され、出会い系サービスの営業届け出や、登録者の本人確認が義務化されたことで、サービス運営事業者の数は一気に減少することになる。

前出の30代男性が働いていた出会い系サービスの運営元は、実はその当時、有望ベンチャーとしてメディアにも登場していた企業で、一時はIPO(株式上場)も視野に入れていたようなところだ。主力の事業は携帯電話向けゲームだったが、収益性を高めるために、子会社を作って出会い系サービスをやっていたようだ。その会社は現在も存在するが、やはり規制強化の影響を受けて、出会い系サービスを営んでいた子会社は数年で畳んでいる。

一人当たりの稼ぎは月100万~300万円位

IPOを目指すベンチャー企業が、出会い系サービスをさくらごと運営して収益源にするなど今では考えられないことだが、当時としては必ずしも珍しいケースではなかった。それだけ荒稼ぎできていたということであり、インターネットバブルが生んだ徒花だったとも言える。そういった運営元の多くは事業を閉じたが、一部は規制を免れるため、海外に拠点を移すなどして生き残りを図っていった。

複数の関係者の証言によると、そういった運営元の多くは現在、東南アジアに拠点を構えているという。

「今は国内に拠点を置いて稼ぐのは難しくなってきましたね。オフィスを借りるハードルも上がりましたし、様々な規制ができたことで、捜査当局のガサも入りやすくなりました。稼げる額も落ちてきているので、リスクに対して全然リターンが見合わなくなってます。関東と関西に大きなグループが残ってますが、それ以外の同業者連中はここ1、2年でどんどん東南アジアのほうに拠点を移すようになっていった。

自分のところは、国内拠点で以前働かせていた優秀なオペレーターを数人そっちの拠点に送って運営させてます。一人当たりの稼ぎはだいたい月100万~300万円位ですが、向こうじゃカネ使うところもないので、3カ月に一度くらい日本に戻ってきて、歌舞伎町あたりで遊んでるみたいですけどね」