なぜハーバード大学を蹴って、SFCに来る子がいるのか
AO入試の受験倍率は、4月入学1期が両学部とも4~5倍程度、4月入学2期が7~9倍程度。既卒生および帰国生向けの9月入学分は、年によって異なり、4倍から、時には10倍を超えることもある。これらの数字からも、簡単に突破できる入試ではないことがわかるだろう。
晴れて合格を勝ち取ったAO入試生たちは、入学後、イキイキと活動しているという。
「AO入試の子はやりたいことがあって入ってきているので、一般入試生や内部生よりも早くから自分のテーマに向かって動けるし、得意分野も明確です。それに刺激されて、どんな子も2、3年経てばやりたいことを見つけています。僕らがやっているのは、いろんな子を入れて混ぜることだけ。キムチみたいにいろんな素材を入れて混ぜていると、ちょっとずつ混ざってすべての味がおいしくなる感じ。学生を食べ物に例えたら、怒られそうだけど(笑)」
そして、ほかならぬAO入試生も、多様な学びに触れて、「持っていた専門性を広い分野で発揮できるようになる」と村井教授。
「囲碁棋士の吉原由香里(旧姓・梅沢)さんは囲碁ばかりして入学してきましたが、SFCで学んだことで視野が広がり、漫画『ヒカルの碁』を監修します。これが日本やヨーロッパで大ヒットし、世界で囲碁人口を増やすことにつながりました。棋士としても強くなって、大活躍しています。吉原さんはSFCで多様な人や学びに触れて、大きく育ったAO入試生だと感じます」
多様性の幅を広げるために、SFCが2011年より取り組んでいるのが、日本語が話せない学生の受け入れだ。「Global Information and Governance Academic Program(以下、GIGAプログラム)を始めて、英語で卒業単位が取れるようにしました。つまり、たくさんの授業を日本語と英語の二本立てでやるってことで、これ、教員が大変なの(苦笑)」
GIGAプログラムで入学するのは、インターナショナルスクール出身者や海外のトップ大学を蹴って入ってくる優秀な子だという。
「ハーバード大学を蹴って、SFCに来るような子がいます。そんなわけないって思うでしょう。でも、いるんです。たとえば、日系ブラジル人や日系アメリカ人。彼らは、祖父母の国で学んでみたいと来てくれる。とにかく優秀な学生が来ていて、それがまたほかの学生のいい刺激になっています」
「本当はね、すべてをAOでとりたいくらいなんです」
同じ教員がやるとしても、英語での授業のほうが少人数になる。必然的にインタラクティブ(双方向的)でおもしろい授業が多く、日本人の学生が受講するケースも多くなったのだとか。意欲があれば、海外留学したような学びをSFCで受けられるのだ。
こうした流れにさらに弾みをつけるため、書類提出および面接で日本語と英語が任意に選べるようにするという。さらにAO入試の募集人員が各学部で拡大される予定だ。
「おもしろい志願書、おもしろい人を待っています。本当はね、すべてをAOでとりたいくらいなんです」
日本の大学入試に革命をもたらしたSFCの冒険は、まだ続きそうだ。