「将来お金が足りなくなるように厳しめに作ってください」
それから7年以上がたちましたが、依然として仕事はできない状態です。まったく外出できないわけではありませんが、両親が就労の話を向けても応じないそうです。そこで両親は、私への相談で刺激を与えたい、ということのようでした。
「今まで、将来のことをあまり考えてこなかったのですが、これではいけないと思うようになりました。なんとか仕事をするように、息子とも話をしたいと思います」
私の事務所では両親から家計の状況を伺い、将来の資金状況のシミュレーションを行います。そして親亡き後、長男本人が生涯、行き詰まることなく生活していけるかを資金面から検討し、提案書を作成しています。
「作っていただいた分析を、本人(長男)に見せてもいいのですか?」
「もちろんです。これが息子さんと話し合うきっかけになれば、それだけで一歩前進です。まだ詳細な分析をしていませんので、はっきりとは言えませんが、お子さんがお一人ですので、(預貯金などからしても)おそらくなんとかやっていけるとは思います。息子さんも安心されるでしょう」
すると、父親は言います。
「先生、それじゃあ困ります。将来お金が足りなくなるように厳しめに作ってください。それを見せて、息子に『仕事をしなければ』と思わせたいのです」
「うーん。そう考えてくれるとは限りませんよ」
私は、父親に賛成しかねます。
「親にお金があるから甘えて働かない」は本当か
実は、このような依頼は少なくありません。今のままの状況が続くと、将来資金が不足して立ちいかなくなる。その現実を本人に見せて、目を覚まさせてやりたい。そうすれば、危機感を持つようになり、仕事を始めるようになるのではないか。そのためのシミュレーションを作ってほしい、という依頼です。
「(親に)お金があるから甘えて働かない」
「お金がなければ、仕事をせざるを得ないはず」
ひきこもりをめぐる問題が起きると、このような言葉がよく出てきます。テレビのコメンテーターやネットのコメント欄でも、こうした認識を持つ人を見かけます。実際、「甘やかしてはいけない」と一切の資金援助をしないという親もいます。
しかし、お金がなくなると、本当に働きに出るようになるでしょうか? 私の仕事の経験上、むしろ一歩も外に出なくなり、さらに状況が悪化することもありました。