土下座に一定の軽減効果あり

一昔前のドラマならば、万引をした生徒にかわり、熱血教師や親が警察や相手に土下座をして許しを請うというシーンを見かけることも珍しくなかった。数年前のドラマ「半沢直樹」での土下座シーンを覚えている人も多いはずだ。

「『え? この人が?』と思わせる土下座は相手の宥恕の意思を引き出しやすい」(PIXTA=写真)

だが、実際のところ現実社会で土下座を目にする機会はレアケースだ。ということは、土下座で罪や賠償が軽減されるのはフィクションの世界だけなのだろうか。

「一概には言えません。立場や状況を踏まえて土下座をすれば、一定の軽減効果を期待できるときがあります」

そう語るのは城南中央法律事務所の野澤隆弁護士だ。野澤弁護士は、土下座の効果が期待できる場面として、あるシチュエーションを挙げてくれた。

「たとえば、成人のあなたが飲酒運転で人身事故(軽傷)を引き起こしてしまったとしましょう。これに対して、遠くの田舎に住んでいる父親がすぐに来て、被害者やその家族に対し土下座をした場合は効果が期待できるかもしれません。法的な責任を負わない者の道義的な面を重視した迅速行動に対し被害者側が、軽傷であること、加えて加害者側の任意保険で対人無制限が適用される見込みなどを考慮し『厳罰までは求めない』といった意思を示すことがあるのです。こうした寛大な心で許すことを法律業界では『宥恕(ゆうじょ)』といいます」

被害者側からの宥恕の意思を引き出しやすいのは、野澤弁護士曰く加害者本人ではなく、父親や職場の上司・親方に代表される後見役。

「逆に、加害者本人による土下座は効果が薄いどころか、無駄なパフォーマンスに見えてしまう危険性すらあります。今では加害者本人による土下座の評判は芳しくないと思っていたほうが無難でしょう」

そもそも、法廷において土下座はどのような影響を与えるのだろうか。

「日本の法律において、土下座の法的意味はあまりないのが現実。土下座をしたので、この法理により軽減しますということにはならないのです。ただし、精神的慰謝料の額や起訴猶予処分の決定等は総合評価でなされるので、微調整の段階で考慮されることはあります」