利用可能性ヒューリスティック

このヒューリスティックは、想起が容易な、つまり「利用可能」な事例は発生しやすい、頻度が高いと判断してしまう意思決定プロセスです。スタンフォード大学のトベルスキーと2002年にノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のカーネマンが、1974年に行った実験を紹介しましょう。

被験者を二つのグループに分けて、同じ人数の名前が載っているリストを読ませました。1番目のグループが読んだリストには、男性の名前の方が多く含まれていましたが、女性の名前の方が知名度の点では高くなっています。

反対に2番目のグループが読んだリストには、女性の名前の方が多く含まれていましたが、男性の名前の方が知名度の点では高くなっています。

リストを読んだあとに、どちらの性別の名前の方がより多かったかを聞くと、どちらのグループの被験者も知名度の高い名前を含んでいた(しかし数としては少ない)性別と答えました。つまり馴染みがある名前が印象付けられて、数まで多いと判断してしまったのです。

「インパクトが強い」「最近知った」「頻繁に接する」「個人的に経験した」「具体性がある」。このような事例は、記憶に深く残って思い出しやすいため、想起が容易になります。

ブランドロゴやシンボル、ブランド名の連呼、CMのジングルや音楽、有名タレントの起用など、多くの広告は、利用可能性ヒューリスティックの効果を狙ったものです。

想起の容易性を高めることによって、広告がより頻繁に放映されている印象を与えたり、タレントの人気が商品の人気であると錯覚させ、実際以上に売れている印象を与えたりすることができます。

代表性ヒューリスティック

ある事象がどのカテゴリーに属しているかを、統計的な確率ではなく、その事象がカテゴリーの代表的、典型的特徴に類似しているかで直観的に判断することを、代表性ヒューリスティックと呼びます。先の事例と同様に、トベルスキーとカーネマンが行った有名な実験を紹介します。

「リンダは31歳の独身女性。社交的でたいへん聡明です。専攻は哲学でした。学生時代には、差別や社会正義の問題に強い関心を持っていました。また、反核運動に参加したこともあります。リンダの現在の姿を予想して、そうである可能性が高い順に以下の8つをランク付けしてください」

結果は、アメリカの主要大学に通う85~90%の学生が、8番目に提示された「銀行員でフェミニスト運動の活動家でもある」の方を、6番目に提示された「銀行員である」より高くランク付けしたのです。

「銀行員である」可能性と、「銀行員であり、かつフェミニスト運動の活動家である」可能性を比べたら、銀行員である可能性の方が高いので、確率的には間違っています。しかしリンダの人物描写を考えると、人権問題やフェミニズムに関心のある、学生運動が盛んなカリフォルニア大学バークリー校(実験を行った2人の研究者が一時、在籍していました)の典型的な学生、というイメージが沸き上がってきて、このような結果になったのでしょう。

つまり「もっともらしい」ストーリーが被験者たちの頭の中で構築され、無意識に「起こりやすさ(確率)」で置き換えられたのです。