仕事相手からセクハラの被害に遭った人の6割以上が、会社には報告していないという調査結果がある。ジャーナリストの白河桃子氏は「たとえ報告しても自分が損をするだけだ、と諦めてしまう人が多い。だが、そうした状況を放置していれば、企業は大きなツケを支払うことになるはずだ」と指摘する――。

※本稿は、白河桃子『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

確かに「今までもセクハラはあった」

まず今までの「法令遵守」のハラスメント対策では、ハラスメントの申告がされない、また防止できていないことが、今明らかになっています。そして、多くの困っている人が声を上げるきっかけになったこととして、#MeTooの存在は無視できません。

世界的な#MeTooの流れに対して、私たちは今セクハラやパワハラに対してどう向き合うのが良いのでしょうか?

「今まで問題にならなかったことが、なぜ今はダメなのか?」という声があります。

元財務事務次官のセクハラ事件では、「被害者にはめられたのでは?」と加害者をかばうような発言もありました。同じ女性記者であっても、「みんな同じようにセクハラに耐えて情報を取ってきた。報道の世界で甘っちょろいことを言うな」と言う人もいます。

そう、今まではずっとあったことだったのです。でも明らかに周囲の環境は変わっています。変化に目を向け、自分をアップデートしないとついていけません。特に2017年から2018年は、変化の年でした。今までの海外と日本での#MeTooの流れをまとめてみました〔(図表1)スポーツ関連などパワハラも一部含んでいます〕。

近年のハラスメント事例(画像=『ハラスメントの境界線』)

グーグルは従業員48人をセクハラで解雇

今まで「セクハラ」は、非常に軽い扱いを受けてきました。しかし、2017年に始まった#MeToo運動を受けて、そうした扱いは変わらざるを得ないでしょう。事実、海外ではセクハラによる経営者の辞任、有名人の失脚が相次いでいます。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Giulio Fornasar)

例えば2018年10月、米グーグルは過去2年間に経営幹部13人を含む従業員48人をセクハラで解雇したと発表しました。そのきっかけとなったのは、2014年に退職した副社長が、それ以前に社内セクハラを通報されていたにもかかわらず、9000万ドルの退職金を支払われていたというニュース(「米グーグル、セクハラで48人解雇 うち13人は幹部」『朝日新聞デジタル』2018年10月26日)。グーグルといえば、2018年11月に約2万人の従業員が行ったハラスメント対応をめぐる抗議デモが記憶に新しいですよね。デモを受け、グーグルはハラスメント対策の改善などを発表しました。

国内でも、元財務事務次官への#MeTooは、日本の労働環境を変化させようとしています。財務省の事務方トップを辞任させ、国会の議論を停滞させ、セクハラ緊急対策をつくらせ、男女雇用機会均等法改正の議論を起こし、日本初の「ハラスメント禁止の包括法案」への協議をもたらしているのです。