アインシュタインも取り入れた「マインドセット」

イノベーションを起こすためには、「幸せに働くこと」が一番です。

しかし、イノベーションがなかなか起きない不幸な職場が多いのも事実です。ブレインストーミングをしても良いアイデアが出ない、どれも似通ったアイデアばかりで目新しさがないなど、多くの企業が閉塞感に悩まされています。

「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットのままで、その問題を解決することはできない」――アルベルト・アインシュタイン

これは、社会課題解決やイノベーションを語る上でしばしば用いられるアインシュタインの言葉です。今の組織に求められることは、まさにこのマインドセット(個々の思考様式のこと)の変革です。

広く一般的な事象はもちろんのこと、ビジネス界でも、この十数年の間にそれまで当たり前であったことが見事に崩壊し、思いもよらないようなビジネスが台頭してきました。特にテクノロジーの進化は目覚ましく、過去を踏襲するだけではまったく太刀打ちできません。マインドセット変革のためには、世界と自分を俯瞰しつつ、多様な人や自分と対話することが有効です。

すると、世界と自己を深く知ることができ、何が課題で、どんな変革が求められているかが浮き上がります。家族や友人、会社のチームメンバーたちとの対話のみならず、ブレインストーミングも有効でしょう。

日ごろの業務以外で「ワクワクする」ことをつくる

たとえば、ANAホールディングスには、「デジタル・デザイン・ラボ」(以下、DD‐Lab)という新しい組織があります。2016年4月に立ち上がったDD‐Labのミッションは、「やんちゃ」な発想で「破壊的イノベーション」を起こすこと。既存事業の枠にとらわれない、新しい技術やビジネスモデルの可能性を、トライアル&エラーを繰り返しながら探究し続ける、まさに「ラボラトリー(研究室、実験室)」です。

ラボのメンバーには、エンジニアや空港スタッフ、マーケッター、キャビンアテンダントなど多様なキャリアの人々が集められました。

DD‐Labのチーフ・ディレクターを務める津田佳明さんは、さまざまなバックボーンを持つ個性的な部下たちが、自分のやりたいことに対して失敗を恐れずにチャレンジできるようなチーム作りを実践するリーダーです。

前野隆司『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)

津田さんは、突拍子もないアイデアやビジネスモデルを頭ごなしに否定することなく、部下との対話を通して、リスクやメリットを明確化し、その上で「行ける!」と思ったプロジェクトに関しては、部下たちを信じ、任せています。

仮に失敗したとしても、そこはリーダーとして責任をとる覚悟を持っておられます。チームメンバーそれぞれが、やりたいことに邁進できる環境作りもリーダーに求められる資質の一つなのです。

私が勤めていた頃のキヤノンにもイノベーティブな思考を喚起させるような取り組みがありました。過去にGoogle社なども導入して話題となった「20%ルール」です。勤務時間の20%を、通常業務とは異なる自分が取り組みたい研究やプロジェクトに使える制度です。

キヤノンという企業全体の制度ではなく、私が所属していた研究所の所長が発案し、責任を持って取り組んだ試みでしたが、大変ワクワクしたことを覚えています。

毎日同じ業務ばかり遂行しているとマンネリになり、クオリティも低下しがちです。

そこで、たとえわずかな時間でも自分が心から「やってみたい!」と思える事柄に取り組む。これがモチベーションアップにつながり、ひいてはイノベーションへとつながるのです。

前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
1962年山口県生まれ。84年東京工業大学工学部機械工学科卒業、86年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社。慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等などを経て、2008年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。11年同研究科委員長兼任。17年より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、など。『脳はなぜ「心」を作ったのか』『錯覚する脳』(ともに、ちくま文庫)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)など著書多数。
(写真=iStock.com)
【関連記事】
「いいね、でもね」な人間とは付き合うな
バカほど「それ、意味ありますか」と問う
"中途半端なエリート"ほど不幸になる理由
悩みの9割は「うるせぇバカ」で解消する
残業を愛する昭和上司を根絶する方法4つ