「怒り」や「不安」という感情が人をおかしくする

「怒り」という感情は時として人間を常軌の逸した心理状態にする。大変怖い。だが、もっと怖いのは過度な「不安」感情による“異常”ともいえる言動だ。

例えば、佐川宣寿・前国税庁長官だ。東大経済学部を出て、財務省の官僚として、エリート街道をひた走っていたが、例の森友学園を巡る、財務省の国有地の売却に関する文書の改竄を「指示した」と認定された。

疑惑を追及された国会での答弁や証人喚問では、安倍首相や昭恵夫人、その他政治家への忖度や指示を受けた事実については明確に否定し、改竄の経緯については刑事訴追の恐れを理由に証言の拒否を続けた。真相は現在も藪の中であり、多くの国民が疑惑の念を深め、不快に感じたことだけは確かだ。

そもそも疑問に思うのは、なぜ改竄を指示したのかということだろう。考えられるのは、もし、売却に関する問題がさらに露見したら、首相や官邸筋に迷惑をかけてしまうのではないかという不安にさいなまれパニック状態になった結果、改竄して事実を必死に覆い隠そうとしたという可能性だ。

しかし、もし、その行為がバレるのではないかと考えなかったとすれば、まったく愚かなことだ。これぞ、賢い人がバカになったといえる典型例ではないだろうか。その詳細なメカニズムに関しては、本連載で今後、解説していく予定だが、現在の認知科学では、「感情と認知(判断)」また「感情と思考」には強いリンクがあると考えられ、感情に認知が支配されていないか定期的にモニタリングすることが重要視されている。

佐川氏は改竄さえしていなければ更迭の理由はなく、希望通りの出世はできないにせよ、それなりの地位が保証されたはずであり、将来は待遇のよい天下り先も得ていたに違いない。ところが彼は完全にその地位を失い、世間に顔向けできない状態に陥った。

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大企業の不祥事も一流大学卒のトップのバカ化が原因

このほかにも大企業の不正会計事件や、リコール隠し、不祥事隠しが最近、立て続けに起きている。これらも、正直に報告すると株主から突き上げられ、マスコミにたたかれる、といった不安が、不正や隠蔽のきっかけとなっているように見える。巧妙に隠したつもりが、結果的に発覚し、そのダメージや損失は甚大なものになる。とてもではないが賢明な行動とはいえない。

そういう企業のトップのほとんどは超一流大学を出ているだけでなく、仕事もできて、社内の出世競争にも勝ち抜いてきた人たちだ。不安という恐ろしい感情が、賢く頭のいい人々をバカにしたといっていいのではないだろうか。