「実際、本当に仕事ができる人は、自分の社内での評価もわかっていて、慰留に時間がかかることも予測できます。ですから、繁忙な時期はいつか、引き継ぎにかかる時間はどれくらいかを見越したうえで、転職先と入社の期日の交渉もしています。そして、今の会社の事情を配慮して、自分がいなくなっても大丈夫な態勢を、辞めると申し出る前につくってしまっているのです」
ここまでしておけば、退職の意志が固いことが会社にも伝わるし、辞められても混乱は最小限だと安心できる。
慰留の際につい言いたくなる会社への不満。たとえ転職の理由がそれでも、絶対に口にはしないこと。「すぐに改善するから」と引き留められてしまうからだ。
「あくまでもポジティブに、自分はこれをしたいから辞めるというのが一番説得力があります。これがやりたいと自分はずっと思ってきた。でも、残念ながら、ここの会社ではできない。その整合性が取れているかですね」
慰留にもいろいろなスタイルがある。泣き落としに恫喝、待遇をアップするからというおいしい提案もあるだろう。
「退職すると決めたら、強い気持ちを持って臨むことです。給与を上げるから、役職を上げるからと言われても、それは一時的なものと考えたほうがいいです。条件に釣られて残るというのは、お勧めしません」
既に転職先が決まっていたとしても、慰留中は会社にそれを告げなくてもかまわない。「まさに転職活動中ですので、まだ決まっておりません」としておいたほうがいいだろう。
退職の心得(4)退職を考えたら、就業規則を熟読する
そもそも、退社する旨を会社に伝える場合、いつ、誰に伝えればいいのか。
退職を申し出る前に、確認すべきなのが在籍している会社の就業規則だ。就業規則には「退職希望日の○カ月前までに、退職願を直属の上司を経由して会社に提出する」などと書かれている(1~2カ月前までに申し出ることと規定している会社が多い)。仮に「2カ月前までに退職願を提出する」とあるにもかかわらず、直前に提出すれば、退職交渉が難航することにもなる。
「最初に告げるのは、自分の人事評価を担当している直属の上司です。課長だとすると、『一旦、預かる』という話になり、辞めさせたくない場合には、部長と話をさせるとか、役員が出てくるとか、慰留のためのプロセスがあると思います。そして、仕事の引き継ぎ方法や退社日がクリアになったら、社会保険や退職金などの事務手続きを人事部とするというのが基本的な流れです」(森本さん)
退職の申し出は口頭でも有効とされているが、会社所定の書類か、自作の書類を提出するのが一般的だ。