曖昧な態度をとると、会社側は慰留できることを期待し、時間をかけて交渉をしてくる。そのうちに転職先に告げた入社日が迫り、結局、退職が間に合わず、転職先の内定が取り消しになった例もあるという。

「結局、あなたの優柔不断な態度で今の職場も、転職先も困ることになるのです」

ただし、きっぱりと辞めることを告げつつも、申し訳ないという態度は示すべきだと古谷さんは続ける。

「少なくとも1人抜けたら、会社側は後任を探し、一から教育しなくてはいけない。時間とコストがかかるだけでなく、後任が育つまで生産性は間違いなく下がります」

自分が辞めても業務が滞らないように、きちんと仕事の引き継ぎをするのが常識だが、それすら疎かにする転職者が増えているそうだ。

「仕事の注意事項をきちんとまとめ、自分の仕事をマニュアル化して、後任にわかりやすく伝える。そして『わからないときは、いつでも電話してください』という一言を添える。そんな気の利いたことを言える人が少ない。『辞めるのだから、私は関係ない』と自分の都合しか考えない人が増えてしまいました」

世の中は狭い。辞め方で下手を打つと、あの人は自分のことしか考えないということになってしまうのだ。

「支給された貸与品、備品はすべて返却するのが基本です。パソコンを初期化すべきかなどは、会社の指示に従いましょう」

世話になった会社への配慮が欠けたビジネスマンに一流の仕事ができるわけがない、と古谷さんは厳しい。

「立つ鳥跡を濁さず。そうすれば、あの人はちゃんとしていたと評価も高まります」

退職の心得(3)退職の理由はポジティブに説明する

なにも辞めなくても、うちの会社でも十分にできるじゃないか、という会社側の強い慰留には、どう対応すればよいのだろうか。

森本さんは「そういう展開にならないように話を進めることが大事」だと言う。

「例えば、自分のやりたいことが、社内の異動で実現できるのなら、人事異動でいいじゃないかという話になります。特に初めて聞くような希望であれば、上司は異動を提案するでしょう。でも、何度も異動を希望していたのに受け入れられなかったのであれば、『そうか、ずっとやりたがっていたけれど、叶えてやれなかったな。辞めてチャレンジするんだな』と上司も納得できます」

事前の段階を踏んだか、踏まなかったかで、円満に退社できるかどうかは大きく変わってくる。できれば、応援されるような形で辞めたいもの。