目指すのは「製品の完全リサイクル化」
このDaisyはゴールへの一歩にすぎない。クックが目指すゴールは、あくまで「製品の完全リサイクル化」である。
アップルは今後、部品に使われている金属やレアメタルなどの「採掘」から、「加工」「組立・完成」、そして「ユーザーによる使用」から「廃棄」まで、これまで一方通行であったプロセスをがらりと変えるつもりだ。
つまり、廃棄される製品が再び「加工」に戻って、「組立・完成」へとつながるクローズドな循環をつくり上げようとしているのだ。
他に類を見ないこの挑戦は、究極の「クローズド型サプライチェーン」を目指すものであり、それが製品の完全リサイクル化につながるというのがクックの構想だろう。この先もし、「採掘」すらも不要になれば、モノづくりが根底から変わる一大革命と言える。それはiPodやiPhoneの登場を超える衝撃をもたらすに違いない。
しかし、こうしたリサイクル素材だけを使ったものづくりに挑むアップルに対して、「コストが膨大になり、ビジネスにならない」とか、「10年以上、あるいは数十年単位はかかる夢物語だ」と批判する人たちがいるのも事実だ。
また、「iPhoneが売れていて、余裕がある今だからできることだ」と冷ややかに見る専門家もいる。つまり、経営が苦しくなっても完全リサイクル化への挑戦を続けられるのかと疑問視しているわけだ。実際問題として、もしアップルからの注文が減れば、サプライヤー側から今ほどの協力を得るのは難しいのではないだろうか。
ビジネスはキレイ事で成り立つのか
では、ユーザーはどうだろう。例えばiPhoneのカメラ性能が向上した場合は、ユーザーはすぐにそれを体感できる。だが、完全リサイクル化で作られたiPhoneの価値をユーザーが体感するのは難しい。果たして、「地球環境にいい製品だ」と訴えるだけで、今後もiPhoneを買ってくれるだろうか。
社内にも問題がある。アップル社員がクックの唱える完全リサイクル化の重要性を、どこまで理解しているかは大いに疑問だ。アップルにはもともと、これまでにない製品を生み出すことに全エネルギーを集中する企業風土があり、地球環境保護を同時に両立させろと言われても、簡単にできることではない。
それでもクックは、「私たちの使命は、常に世界を前よりも良いものにして残していくことだ」と強調する。これをキレイ事だと冷笑する連中が少なからず存在するのも、無理からぬことだろう。しかし、こうした理念は本当に単なるキレイ事なのだろうか?
トランプ大統領のさまざまな言動が示すように、今の米国は平気でうそをつき通す人物が得をする国に落ちぶれつつある(これは日本も同様だが)。これでは正直者がバカをみる国になってしまいかねない。
そんな背景を顧みれば、堂々とキレイ事を掲げて一歩一歩前に進もうとするクックの姿勢は、今の社会では非常に価値があることではないのか。少なくとも私はそう感じている。