今後の課題は「技術の伝承」と「若手育成」

紙幅の関係で2人の紹介にとどめたが、他にも何人かに話を聞いた。いずれの審判員も、恵まれない報酬でも情熱は熱い。個人差があるが、用具にこだわり、技術を研さんする人も目立つ。

中長期的には、「技術の伝承」と「報酬の引き上げを含めた若手を増やす」ことが課題だ。審判員に憧れても、意欲のある若手ほどプロ野球審判員を目指すので、草野球に来る若手は限られる。一方で選手とは違い、審判技術を磨けば60代以降もいられる世界でもある。

現在、KUCが依頼先に提案するのが「2人制」の審判派遣だ。プロ野球の試合は、球審や塁審、線審の「4人制」で実施されるが、草野球の審判員は「1人」の場合も多い。だが1人の審判が、投球を判定する球審から、打球の判定をする線審まで、すべてを担うのはむずかしい。

「2人制」とは、球審と塁審の2人が、打球では臨機応変に位置取りを変えて、打球や走者を見る。どのプレーで、どう動くか。判断の引き出しが増え、技術向上に役立つという。

2人制を導入した試合で、二塁前に構える塁審(画像提供=関東審判倶楽部)

チームのレベルに応じた”顧客満足”を目指す

技術にこだわりつつ、KUCは時に“顧客満足”も目指す。試合前のキャッチボールを見て、レベルが高くないチームには事前に告知して「ストライクゾーン」を広く取る。そうしないと四球を連発して、試合がつまらなくなる(顧客が楽しめない)からだ。一定レベルのチームなら、「ストライ〜ク!」と張りのある声で判定してくれれば気持ちいいだろう。

前述の報酬も、たとえば1試合1万2000円、2人派遣で2万円にしたいところか。両チームの参加選手20人で頭割りすれば1人1000円。試合後の飲み会費用を考えれば割安だ。

全国各地でアマチュア野球の試合が多い時季だ。野球好きの人は、時には審判員の動きに注目して試合を観てはいかがだろう。たとえば打者が打った後、審判がどう走るかを追えば、違う試合の見方ができるかもしれない。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
(画像提供=関東審判倶楽部)
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