日本は海外のキャッシュレス先進国から周回遅れ
「平成」も終わりに近づくなか、世の中を見渡せば、「キャッシュレス」という言葉があふれかえっている。それでは、これから迎える「令和」の時代に、本格的なキャッシュレス化社会を実現することはできるのか。この問いに答えるためには、キャッシュレス化の利点と日本人の国民性を踏まえたうえで、現実に直面しているボトルネックを探る必要がある。
まず、現状を確認しよう。他国に比べて現金志向が強い日本のキャッシュレス決済比率は、北欧やアジアのキャッシュレス先進国に比べてかなり低い。各国の民間最終消費支出に占めるキャッシュレス決済額の比率を確認すると、日本が2割程度にとどまっているのに対し、スウェーデンは約5割、韓国は約9割に達する。つまり、日本のキャッシュレス化は、海外のキャッシュレス先進国から周回遅れだと評価できる。
長期的な視点に立てば、キャッシュレス化が進展することにより、日本全体の生産性が高まるとともに、消費者の利便性向上といった効果が期待される。その意味で、キャッシュレス化の推進は日本の成長戦略にとっても重要な柱となり得る。
具体的なメリットとして、小売店では、会計作業の効率化や現金管理・輸送の負担を軽減でき、金融機関はATM・店舗網の削減を通じてコストを抑制することができる。消費者は、現金を引き出す手間が省け、レジの待ち時間も減らせる。
さらに、近年急増している外国人旅行者によるインバウンド需要を一層取り込むためにも、キャッシュレス化が欠かせない。観光庁のアンケートによると、外国人旅行者が日本で困ったこととして、「両替」や「クレジット/デビットカードの利用」と回答する割合が高く、現在、インバウンド需要で売り逃し・機会損失が生じている可能性がある。そのため、観光スポットの各種決済のキャッシュレス化を進めることにより、彼らの日本での消費を促すことが期待できる。
こうしたキャッシュレス化の「利点」を見据え、近年、日本においても、キャッシュレス化推進に向けた動きが「産官学」で急速に盛り上がっている。2018年7月に、産官学で「一般社団法人キャッシュレス推進協議会」を設立し、いわば、オールジャパンでキャッシュレス化を推進する体制が立ち上がった。さらに、政府が、2019年10月に予定されている消費増税対策の一つとして、ポイント還元制度を打ち出したことも大きな注目点だ。
現在、政府は、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割へと引き上げる目標を掲げている(図表1)。また、インバウンド需要に関しては、主要な商業施設、宿泊施設および観光スポットにおいて、「100%のクレジットカード決済対応」と「100%の決済端末のIC対応」の実現を目指すとしている。