「生活習慣病」の言葉で人生を否定された気持ちに

そもそも病気は、何かに気をつければ確実に予防できるわけではありません。病気によっては、再発や転移のリスクもつきまといます。成功も失敗もあれども、自分の人生を自分で決断して進んできた私にとって、この「自己コントロール感の欠落」は最もやるせなく感じたことのひとつでした。

たとえば「がんは生活習慣病」とよく言われます。生活習慣病とは、自分の生活習慣が原因で発症する病気のことです。

でも「生活習慣病」という言葉を聞くたびに、「何か悪い生活が習慣化するほど、長く生きていないんだけどな」と思うとともに、「病気になった自分の生活が悪い=自分の生き方が悪い」と、これまでの生き方を否定されたような気持ちになりました。

がんを発症するリスクを上げる要因は、いくつかわかってきています。

たとえば、たばこ。喫煙は、肺がんや食道がん、すい臓がん、胃がん、大腸がん、膀胱がん、乳がんと、いろいろながんに関連があることがさまざまな研究から報告されています。男性のがんの3割が、たばこが原因と言われるほどです。

でも、その人のがんの原因が何か、ということはまた別の話です。

がんになった自分を責めなくていい

がんと診断されると、「どうして私が?」の「どうして?」の部分を考え、これまでの生活を振り返って自分を責めがちです。

桜井 なおみ『あのひとががんになったら-「通院治療」時代のつながり方』(中央公論新社)

ただでさえ、患者の方は「あれがいけなかった」「もっとこうしておけばよかった」と後悔しています。そこに、まわりから「どうしてあなたが」「不摂生していた印象もあるしね」なんて言われると、責められているようで、さらに落ち込んでしまう。『あのひとががんになったらー「通院治療」時代のつながり方』(中央公論新社)へ詳しく記しましたが、これは言ってはいけないNGワードの一つです。

がんになったのは生活習慣かもしれないし、遺伝かもしれないし、ウイルスや細菌の感染かもしれないし、ストレスかもしれない――。

何が原因かなんてわかりません。原因もひとつではないのかもしれない。事実として、いまの医学でまだわからないことはあります。

だからもし、がんと診断されたからといって、それで自分を責めるのは、絶対にやめましょう。そして、がんの患者さんが身近にいる方は、「がんのリスクはいろいろあるんだから、何が原因かなんてわからない。でも言えるのは、あなたのせいではないということ」と、やさしく伝えてあげてください。

桜井 なおみ(さくらい・なおみ)
キャンサー・ソリューションズ株式会社代表取締役社長
1967年生まれ。厚生労働省がん対策推進協議会委員。乳がん体験者。37歳のときに乳がんが見つかり、治療のために勤務先の設計事務所を休職。職場復帰後、治療と仕事の両立が困難となり退職。その体験を元に、がん患者の就労支援事業である「CSRプロジェクト」をスタート。その後キャンサー・ソリューションズを創業し、代表を務める。企業によるがん患者雇用配慮や、元患者やその家族などを含めたケアの広がりを視野に、啓発と発信を続けている。著書に『あのひとががんになったらー「通院治療』時代のつながり方』(中央公論新社)。
(写真=iStock.com)
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