「本物のエンジェル」が現れた!

その2週間後、とある行政書士の方から突然、電話がかかってきました。「日本のベンチャー技術を本気で応援していて、素晴らしい人格者の投資家がいるのですが、会ってみませんか?」と言うんです。その「Nさん」という投資家にお会いして印象的だったのが、ほとんど資料、特に事業計画の数字に興味を示さなかったことでした。30秒ぐらい資料をめくる以外は、終始、僕の目を見て話を聞いていました。

そして、「差し支えなければ、私の投資を最大限活用してもらえませんか? 今、御社が想定している調達資金なら、私一人で実行させて頂くことは可能です」という思いがけない提案を受けたのです。「私は事業の進め方にはいっさい口を出しません。技術を磨くためには、時間を金で買ったほうがいい場合もあるでしょう。その際は遠慮なく相談してください」と。

本物の個人投資家は、表面的な資料やプレゼンテーションではなく、相手がどれほどのエネルギーをこめて話をしているかを見ているんだと思いました。そして何より、当社にとっては巨額の開発費支出を決意した直後に本物のエンジェル投資家が現れてくれたことに驚きと我が身の運命を感じた瞬間でした。

Nさんを乗せたタクシーを見送る際、車が見えなくなった後も頭を下げたまま動けませんでした。あの光景を一生忘れることはありません。軍資金が集まりそうという安堵感より、むしろ勇気と責任感が湧き出してきました。現在、優秀な開発陣に恵まれ、ほとんどを内製開発できるようになったのもNさんのお陰です。

「この技術やったら、コトバ超えるよなぁ」

そして、奇跡はさらに続きます。

2017年の夏、雑居ビルに入居していた弊社に、吉本興業の大﨑社長が訪ねて下さったのです。放送業界の知人から、当社の技術について聞き、関心を持ってくださったようです。

吉本興業は、お笑い番組を中心にさまざまなコンテンツを持っています。大﨑社長は、そのコンテンツを活用した、アジア市場をはじめとしたグローバル戦略に強い関心をお持ちで、「日本のコンテンツは面白い! どんどん海外進出すべきや。けど、言葉の壁があるからなぁ……でも、この技術やったらコトバ超えるよなぁ」とつぶやかれたのが印象的でした。

僕がTIGについて説明すると、大﨑社長は「これは早いうちに仕掛けなアカン!」という話になり、その秋には吉本興業が引受先となったパロニムの第三者割当増資が決まりました。出会いからわずか半年にも満たない展開でした。