時代に迎合しないけれど時代に必要とされる店
平成28(2016)年に、私は「現代の名工」として表彰されました。「現代の名工」とは、卓越した技能者表彰の制度です。技能者の地位と技能水準の向上を図るために、昭和42(1967)年に設けられたものでした。
平成7(1995)年度までは毎年約100名でしたが、平成8年からは毎年約150名が表彰されています。
表彰の理由は次の通りです。
「15代目より19代目まで100年間続いた「川魚料理」に加え、若狭街道からの食材、若狭ぐじを主体とした「若狭懐石」を考案し、世界中の食材がいつでも新鮮なまま手に入る時代にこそ氏は地産地消にこだわり、一塩のぐじの旨味、地元で取れる京野菜をたくみに使い、京料理の基本を忠実に具現化し、かつ「時代に迎合しない、しかし時代に必要とされる料理」を追求しており、技能の伝承に貢献している。」
これまでの私の料理人人生を評価していただきました。
表彰理由でも触れられていましたが、「時代や流行に迎合しないけれども、時代に必要とされる店をつくり、料理をつくっていかなければならない」というのが、私の信条です。
たとえば、女性の時代だからという理由だけで、女性が好むような八寸(前菜)をつくることはありません。女性受けするように八寸に、小さな日傘を置き、こっぽり(下駄)を置いて、玉砂利を乗せるといった演出もしません。あるいは、若者が好むお肉やフォアグラをどんどん使う料理をつくるつもりもありません。
迎合しないという選択も「革新」である
私は「こうしたら評価される、話題になる」という発想には、どうしても反発したくなります。迎合したくないという意固地さがあります。私は自分が信じている料理をつくるだけなのです。
私の料理の原理原則は、繰り返しになりますが、地産地消です。日本海から入ってくる若狭のぐじ、鯖を使い、そこに京野菜を使った料理が、私の料理なのです。昔から京都で使われている食材、魚介類、京都にある野菜を使った懐石料理、京料理を求めていくことです。
これからはますますボーダレスの時代になります。この10年で、海外からのお客様もずいぶんと増えました。海外のお客様が旅行代理店を通さずに、直接、平八茶屋のサイトに申し込む時代です。その数は驚くほど増えています。
お客様の流れがボーダレスになっているだけでなく、世界からもさまざまな食材が入ってきます。だからこそ、これからはあえて使わないことが大切になっていく時代です。何かを守るということは、革新の連続なのです。迎合しないという選択も革新だと思います。
しかし、どんなに時代が変わっても、私たちが忘れてならないのは、「手間をかける」ことの大切さです。この一点は、どんな時代になっても忘れてはなりません。平八茶屋440年は、さまざまな変遷がありましたが、麦飯とろろ汁をお出しすることは変わりませんでした。
ただお出しするのではない、お客様に私たちの思いを「手間をかける」ことでお伝えすること、それがとても大切だと思っています。