「お墓を撤去されたくなければ900万円」
寺院墓地の場合、お寺によっては一緒に入れる範囲を決めているところもある。例えば、実子と配偶者のみ同じお墓に入れると独自に定めているお寺では、こんなトラブルがあった。
数年前に亡くなって、このお寺のお墓に母の兄を納骨したという男性は、ある日、お寺側から、「お墓を撤去して合葬するが、撤去されたくなければ900万円を払ってほしい」という通知を受け取った。母の兄には子どもがいなかった。男性は幼いころから可愛がってもらったため、おじさんの死後、お寺の年会費を代わりに負担し、年に数回の墓参を続けてきたという。
このお寺の規則では、実子ではない男性がお墓を継承することはできないため、お墓を無縁墓として撤去するか、男性が新しくお墓を建てるのに必要な永代使用料900万円をお寺に支払うか、という選択肢をお寺は提示してきたのだ。
もちろん、こんなお寺ばかりではないが、配偶者と実子しかお墓に入れないという考え方は、これからの社会において破たんしている概念であることに気づくべきだ。お墓がお寺にある人は、どこまでの範囲でお墓に入れるのかという決まりがあるかどうかを、墓地の霊園規則で確認したい。
4割が「無縁墓」になっていた熊本県人吉市
そもそも配偶者も実子もいない人が急増している。50歳時点で一度も結婚経験のない人の割合を示す「生涯未婚率」は、2015年は男性が23.4%、女性が14.1%だった。男性は長く「結婚して一人前」とされてきた風潮があり、1950年の数値は1.5%にとどまっていたが、1990年以降急増した。
増加に転じたこの年に50歳だった男性がまもなく80歳を迎える。これからは、生涯未婚の男性がどんどん亡くなっていく社会が到来し、配偶者や実子がお墓を継承するのが当たり前、ではなくなるのだ。
実際、熊本県人吉市では、2013年に市内の全995カ所の墓地を調査したところ、4割以上が無縁になっており、なかには8割以上が無縁墓になっている墓地もあった。東京都では2000年以降、年間管理料を5年間滞納し、親族の居場所が分からない無縁墓を撤去しているが、今後増える無縁墓対策として、撤去したお墓の遺骨を納められるよう、2012年に無縁合同墓を新たに整備した。