ビジネスなら面白いのは何といっても創業経営者
同じ分野で活躍した人のコントラストも面白い。野依良治氏と益川敏英氏。いずれもノーベル賞を受賞した偉大な科学者だが、野依先生が研究成果に向けて邁進し、強烈なリーダーシップを発揮するのに対して、益川先生は初期の大きな業績を成した後、研究に対するモティベーションが下がり、趣味のオーディオに走ったりする。こういうところが面白い。
ビジネスの分野でいえば、面白いのは何といっても創業経営者だ。最近の「私の履歴書」でいえば、高田明氏(ジャパネットたかた創業者)と横川竟氏(すかいらーく創業者)の回を面白く読んだ。いずれも強烈なスタイルの持ち主。その独自のセンスの上に商売が開花する。経営が何よりも経営者の自由な意思にかかっているということをまざまざと教えてくれた。
ここからが本題である。僕の長い「私の履歴書」歴の中でも、「事件」というべき連載に遭遇した。これを書いている時点で連載中の石原邦夫氏(東京海上日動火災元社長)の「私の履歴書」だ。
他の経営者と比べても、つまらなさの次元が違う
創業経営者と比べると、大企業の経営者による「私の履歴書」はいったいに面白くない。とくに金融系はつまらない。それにしても、石原氏の連載には刮目させられた。底抜けにつまらないのである。他の大企業経営者と比べても、つまらなさの次元が違う。それがたまらなく面白い。
読んでいない方のために内容をかいつまんで紹介する(ある意味で読みどころ満載なので、要約するのが心苦しい。ぜひ原文に当たることをお薦めする)。日比谷高校から東京大学法学部に進学。東京海上に就職する。新人時代の使い走り時代を経て、商品開発部門に配属。専門書で勉強し、世の中の変化に合わせて保険商品をつくる楽しさを知る。仕事が終わると先輩と2時3時まで飲み歩く日々。しかし、非常事態に対応するのが損害保険会社。翌日の仕事に差し障るのはプロとしてよろしくないと、日付が変わるまでに酒席を終えるようになる。
顧客対応の難しさ。人が行きかう駅で土下座をすることもある。代理店から出禁をくらっても、粘り強く何度も足を運び、ようやく納得してもらう。丁寧に意図を説明して誤解を解き、信頼を勝ち得るために努力を惜しまないことが大切と知る。
部下と上司の板挟みに苦しんだ課長時代。ストレスで十二指腸潰瘍を患う。職場の雰囲気がギスギスしていて、3人の女性社員が辞めたいと言い出す。ムードを和らげることに努めた結果、「まだ続けます」といってもらったときの嬉しさ。