ケンカなれした人やディベートに強い人は、意識して「Answer」を素っ飛ばし、「Catch→Question」にもっていく。話を噛み合わせない。相手の土俵には絶対に乗らないのだ。

向谷匡史『最強の「お父さん道」』(新泉社)

「人の顔、なにジロジロ見てるんだ」
「何かご用ですか?」

相手は“二の矢”に詰まる。

「なんで停まらないんだ」
「どうしてもとおっしゃるなら、警察を呼んでいただいても構いませんが?」
「ケンカ売る気か」
「交番に行きますか?」

話を噛み合わせない。こういう言い方をすると“火に油”で相手の怒りを誘うように思うかもしれないが、それは誤解。噛み合わない難クセは恐喝になることを彼らはよく知っている。だから恫喝に対して堂々と胸を張り、“別の土俵”で紳士的に対応すれば相手は攻め手がなくなり、捨てゼリフを吐いて立ち去ることになるのだ。

駅の酔っぱらいをどういなすか

駅のホームも“危険の宝庫”である。ぶつかった、足を踏んだ、携帯電話が鳴った、大股で座っていて席を詰めない、ヒジが当たったのに知らん顔……。腹が立つことが多く、眉間に皺を寄せて相手をニラみつけようものなら、

「なんだ、この野郎!」

ケンカになる。

夜になれば酒が入る。だから電車やホームの酔っ払いの多くはサラリーマンで、理性のタガが外れ、日ごろの鬱憤を見ず知らずの人にぶつけてくる──というパターンである。カラまれても、それに応じないでいれば暴力的な意味で身の危険は少ないが、一緒にいる家族が怖がってしまう。理性をなくした酔っ払いは子どもには不気味な恐さがあり、お父さんが何の対処もしないとなれば、権威は傷つく。ここが問題なのだ。お父さんは家族の身を守ると同時に、子どもを怖がらせないことが大事になってくる。

そこで、どうするか。私もホームで酔っ払いにカラまれた経験は少なからずあるが、

「うるさい!」

と応じると、酒の力もあり反作用で相手も強気に出てくる。これは酔っ払いの習性である。しかもケンカになって相手がホームから転落でもすればえらいことになってしまう。ホームでのケンカは、どういう理由があるにせよ、絶対に避けるべきなのだ。

私は笑顔であしらう。反作用が起きないようにいなすのだ。ただし、「お父さん、ご機嫌だね」といった軽口はNG。酔っていても軽口に対しては敏感に反応するもので、

「なに言ってやがる」

火に油ということになる。