※本稿は、鈴木颯人『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)を再編集したものです。
「達成できるかどうか」は関係ない
私は、常日頃からクライアントに、「目標を立てるなら、実現できるかどうかわからずモヤモヤするものより、ワクワクするものにしたほうがいい」と伝えています。スポーツ心理学では達成する確率が100%の目標より、50%程度のものがいいとも言われていますが、競技によっては数値で測れないものもあります。そのため、「達成できるかどうか」といった曖昧な基準で目標を設定するのではなく、本人が「ワクワクする目標」を設定することがポイントです。
私がコーチングを行っている体操選手Dさんは、以前、現状のままでも達成しそうな目標ばかり立てていました。しかし話を聞けば聞くほど、Dさんが設定すべき目標は、そんな狭い範囲のものではないと感じました。オリンピックの話をするときのDさんの表情が、他の話題のときに比べ、ひときわ輝いていたのです。
「オリンピックに出たい」――それが、Dさんの内なる野望でした。そこに内発的動機を感じ取った私は、Dさんと話し、思い切って目標を、「オリンピックに出場すること」に設定したのです。
Dさんは最初、日本の代表選考会の予選をギリギリで通過するくらいの成績でした。しかし自分の本心からの目標を口にし、努力するようになった結果、なんとコーチングからわずか9カ月程度で、全日本選手権で優勝という成績を収めました。
今、Dさんは「史上最高得点を2回達成する」という新しい目標に向けて頑張っています。この目標を達成できたときには、オリンピックで当たり前のように金メダルを取っていることでしょう。それほどに簡単ではない目標ですが、精神的にもステップアップしたDさんが目標を突破するのも、時間の問題だと思っています。
ワクワクできなければ頑張れない
Dさんのように、本心を隠して日々過ごしている人は少なくありません。メンバーに目標を聞いてみて、「本気じゃないな」と感じたら、「会社とか評価とか関係なく、心からワクワクすることってある?」と、思い切って聞いてみましょう。すぐに教えてくれなくても、その人の奥底にあるワクワクの片鱗に触れれば、それが目標設定のヒントになることもあります。焦る必要はありません。焦って「外面のいい」目標を設定しても、心からワクワクできなければ、頑張り続けることはできないのですから。
本人の「ワクワク」を見つけられるかどうかで、その後のパフォーマンスは大きく変わります。ここは、リーダーが根気強く探しに行きたいところです。数字にシビアな世界ではつい、「できそうにないこと」を否定したくなるものですが、一流のリーダーは実現可能性よりもメンバーの「ワクワク」を大事にして、結果を出させるのです。