著者は早稲田大学教授で科学をわかりやすく伝えるサイエンス・コミュニケーションの第一人者である。本書は副題に「科学と文学の出逢い」とあるように、小説・エッセイ・映画などを科学者の目で楽しむ理系の文学論である。

なかには50作以上の作品が取り上げられている。たとえば、ネス湖の巨大生物ネッシーを題材にした映画『ウォーター・ホース』を用いて生態系を語り(34ページ)、池澤夏樹の文学書『星に降る雪』から素粒子ニュートリノの最新天文学を導き出す(64ページ)。スピルバーグ監督のSF映画『A.I.』に描かれた人工知能を紹介しつつ、ノーベル賞学者ローレンツの名著『ソロモンの指環』の刷り込み理論を絡ませてゆくあたりは、著者ならではの見事な切り口である(125ページ)。