4月上旬、出張で上海を訪れたときのことだ。日本に帰る前日に家近くにあるスーパーで買い物をした。レジ袋はいりますかと聞かれて、中国でレジ袋が最近有料になったことを思い出し、中国もだいぶエコになったなあと、少し感心していた。「いります」と答えるとレジ係がレジ袋を取り出して赤外線センサーにかけ、「ピー」という音がした。袋の金額を表示するバーコードが読み取れたときの、なにげない機械音に違和感を覚えた。
買い物用のエコバッグを持ってこなかったことを後悔した。決して余計な出費が発生したことを後悔したのではない。環境保護重視の時代に手ぶらで買い物に来た自分を恥じたと同時に、こうした行動に対して「ピー」という音で注意されたようで妙に腹が立ったのだ。
ちなみに日本の近所のスーパーで買い物するときも同じように聞かれる。レジ袋がいると答えれば提供してくれ、いらないと言えば商品の代金から2円くらいが割り引かれる。金額は微々たるものだが、環境保護に貢献したことでご褒美をもらったようで、だんぜん気分がいい。
日中のやり方でどちらがいいのかはここで論じるつもりはない。なぜ買い物の話をしたのかというと、実は、今回取り上げる本の著者も、中国のレジ袋問題を例に挙げながら、米中の環境・エネルギー政策について論じているのだ。考えてみれば、たかがレジ袋、されど今やエコを考えるとき、多くの人にとって最も身近なアイテムになっているではないか。
私自身、冒頭のような体験をしていたので、この本の目の付けどころに、なるほどと思わず笑みを浮かべてしまった。
今回の本は、トーマス・フリードマン氏による『グリーン革命』だ。大ベストセラー『フラット化する世界』の著者の新著だけに、大きな注目を浴びた。かのオバマ米国大統領も熟読したという。
フリードマン氏は、省エネ政策に力を入れないアメリカを批判し、そのアメリカが「ほんの1日だけ、中国になる」という奇想天外な夢を語る。
「中国の統治体制は、あらゆる面でアメリカの体制に劣っている」と同氏は言う。「たった一つの点だけを除いて」と付け加える。それは、やろうと思えば、トップダウンで大々的な変化を命じられることだ。
2007年のある日、中国政府は、08年から国内すべての商店で無料のレジ袋を客に渡すことを禁じると宣言。レジ袋は突如として有料となった。理屈上、13億を超える民が袋の使用をやめれば、数百万バレルの石油が節約され、ゴミが減る。
フリードマン氏は同じく、アメリカも1日だけ中国に見習って省エネの政策を制定し、後はアメリカ資本主義の自然なエネルギーの働きに任せればいいと提案している。
では、なぜ2日以上見習う必要はないのか。中国では中央政府が定めた立派な政策でも地方の役人がそれを守ろうとしない。一方アメリカでは、いったん法律化されれば、国民がそれを守るようにきちんと監督するため、2日目以降は制度的に劣っている中国にもう学ばなくていい、という同氏のわかりやすい主張に大きくうなずいてしまった。
省エネ分野での日本の貢献を持ち上げすぎている嫌いはあるが、一読する価値が十分すぎるほどにある本だ。