神奈川県横浜市中区の「黄金町」というエリアは、麻薬や売春がはびこり、かつて“暗黒街”と呼ばれていた。だが2002年から住民たちが行政を巻き込んでまちの再生を目指し、現在では「アートのまち」となった。不動産市場に詳しい中川寛子氏は「住民たちは月1回の防犯パトロールを10年近く続けている。その粘り強さには頭が下がる」という――。

※本稿は、中川寛子『東京格差 浮かぶ街・沈む街』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

「新規事業に失敗する会社」と「活性化できないまち」の共通点

まちの活性化はあちこちで試みられているが、いろいろ観察していると、住民の中から主体的に動きが起きるまちと全く何も起きないまちがある。ビジネスにおける新規事業とまちの活性化に共通点はないだろうか。

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モノを選ぶ際の選択肢の多様化、社会や暮らしの変化、人口減少によって多くの分野で既存の市場は縮小しており、どこの会社も何か、新しい事業を起こしたいと考えるようになっている。衰退するまちの背景にもいくつか同じ要素があると考えると、新規事業を渇望しながら失敗する会社の条件は、活性化できないまちと重なるのではないかという推論である。

多数の企業の新規事業にアドバイザーとして携わり、『はじめての社内起業』(U‐CAN)『新規事業ワークブック』(総合法令出版)の著書がある石川明氏によると、日本の企業は40年以上、新しいモノを生むことに注力してこなかったという。最近の20年ほどは効率よくモノを作ることを追求してきたし、その前の20年ほどは多くのものを安く作ることがテーマだった。そのためには合議制や緻密なリスク分析、データ収集などが役に立つが、新しいものを生み出そうとすると、それが障壁になりやすいのだという。

大きな自治体ほど“立ち上がる人”が現れにくい

「歴史、規模のある、ちゃんとした会社ほど新しいものを生み出しにくいのは過去に成功してきたやり方を変えきれないためでしょう。イノベーティブな商品、サービスは個人の思いや志から生まれるもので、会議やリスク分析からは生まれません。最初のアイディア時点ではとんがった面白いものだったとしても、多くの人達の同意を得ようと考え始めると、だんだんに角が取れて、最終的にはどこかで見たような無難な二番煎じ、三番煎じに落ち着いてしまいがち」

「また、ある程度以上の大きな会社ではある事業を最初から最後まで一人が担当するやり方がとりにくい。発案者が短期で異動、新しい事業を育てきれないことが少なからずあります」(石川氏)

歴史、規模のある、ちゃんとした会社を自治体に置き換えたらどうだろう。大きな自治体ほど、寄らば大樹の陰と安心してしまい、自分の問題として立ち上がる人がいないのではなかろうか。