現在、アメリカでは数千もの睡眠クリニックが開業しており、社会的に睡眠への意識が高い。一方の日本では、いまだに長距離トラック運転手の過失事故や、過労死問題が頻繁にニュースを騒がせている。

「政府自ら地下鉄の24時間運転や、シャイニングマンデー(※)などを提唱する国ですからね。それによる経済効果より、睡眠負債が引き起こす健康被害や産業事故による損失のほうがはるかに大きいのに。アメリカではすでに40年ほど前から、時間生物学を考慮した働き方やシフトの組み方をNASAや産業界が実践しています。日本は数十年遅れというべきでしょうか」(西野氏)

製造業や介護現場など、どうしても深夜勤務が必要な職種もあるが、その場合もアメリカでは3カ月間深夜勤務のみというシフトを組む。日本式の昼夜2交代を繰り返すのは最悪のパターンで、「覚醒時のパフォーマンスも落ちるし、事故もうつ病も増える」(西野氏)という。

裵氏、西野氏ともに、日本人の睡眠負債は職場のマネジメント不足や社会的な認識不足も関係していると捉えている。日本の生産性向上や「働き方改革」の前に、「睡眠」の重要性も考慮に入れるべきだろう。

※シャイニングマンデー……月曜日の午前休。経済産業省が「プレミアムフライデー」に続くキャンペーンとして検討していると、テレビ朝日が報じた。

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Q 大事なプレゼンの前日、緊張で眠れません。
A プレゼンの2日前の睡眠時間を減らし、「睡眠圧」を高めましょう。
睡眠は生活習慣の一部。明日は大事なプレゼンがあるから、いつもより早く布団に入ってぐっすり寝たいと思ってもできません。ちなみに普段の就寝時刻より2~3時間ほど早い時間帯は最も眠りにくい時間帯。そこで緊急措置として、その大切なプレゼンの2日前の睡眠時間を減らすことをお勧めします。すると、前日は睡眠圧(眠たい気持ち)が高まるので、ゆっくり寝られます。意識して長めの半身浴をしたり、大好きな焼き肉で気合を入れたりするのは、逆効果になるかも。
Q 夏の朝は起きても眠った気がしません。
A 暑くてもシャワーで済まさず、入浴してベッドに入りましょう。
夏はシャワーで済ませる人も多いでしょうが、夏こそ湯船に入るべき。眠気は体温の変化と密接に関わりがあり、体温が下がると自然な眠気が訪れます。湯船で温まって少し体温を上げると、そのあと体温が下がり、心地よい眠りが得られます。夏はエアコンの効きすぎや、冷たいものの食べすぎで、日中に体が冷えている傾向があります。また、エアコンのつけっぱなしは目覚めを悪くします。朝は体温が上がるので、合わせて部屋も温度調整しましょう。
Q 朝カツしたくても、起きられません。
A 頑張った自分へのご褒美を何か用意しておきましょう。
朝起きられない原因の大部分は、睡眠の質の悪さや睡眠不足ですが「楽しみがない」「目的が弱い」という「起きるモチベーション」の側面も無視できません。そこで、ほんの少し「自分だけのための邪魔されない時間」をつくるだけで、1日の充実度・満足度は上がります。甘いもの好きならケーキを前夜に用意しておくのもいいでしょう。私は起きがけのコーヒーが楽しみです。朝は、寝る前にタイマーセットしたコーヒーメーカーから漂う香りを嗅ぐのが毎朝楽しいです。
Q 悩み事が多く、布団に入っても眠れません。
A 15分たっても寝付けない場合は寝室から出てみましょう。
まずその悩みや不安は自分でコントロールできるものなのか、整理してみてください。「明日の株価が気になる」「上司と合わない」などの悩みは自分ではどうしようもない。自分で対処できることだけに絞り、あとは考えないと割り切るのも大切。また、就寝時刻前の1時間ほどは、好きなことをしてリラックスしましょう。15分たっても起きていたら、寝室を出て他の部屋で好きな音楽を聴いたり、読書をしたりしてみましょう。眠くなったらまた寝室に戻りましょう。
Q 海外出張が多く、時差ボケに悩んでいます。
A 米国方面は早寝早起き。欧州方面は遅寝遅起きで準備を。
旅行前の睡眠が不足していると、時差症状による睡眠障害がより強く出現する場合が多いです。渡航前は十分な睡眠の確保を。米国など東方面に向かう場合は、数日前より少しずつ早く床につき早起きをして体を現地時間にゆっくりと慣らしましょう。欧州方面など西へ向かう場合は遅く寝て遅く起きるようにして準備しましょう。滞在期間が2~3日なら無理に合わせず、日本時間の夜の時間帯にまとまった睡眠をとるようにし、日本のリズムを保ったほうが楽な場合も。
Q&Aは『一流の睡眠』(裵英洙著)や取材をもとに編集部作成。
西野精治(にしの・せいじ)
医師
1955年、大阪府生まれ。医学博士。スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所所長。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』。
 

裵 英洙(はい・えいしゅ)
医師
1972年、奈良県生まれ。医学博士、MBA。金沢大学医学部卒、同大学大学院医学研究科、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。著書に『一流の睡眠』など。
 
(撮影=市来朋久)
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