実際に前回14年の欧州議会選では、景気低迷の長期化や難民問題の深刻化を受けてポピュリズム政党出身者の議席が急増した。具体的にはイタリアの「五つ星運動」などから成る会派「自由と直接民主主義の欧州」は42議席を、フランスの「国民同盟」などが属する会派「平和と自由のための同盟」は35議席をそれぞれ獲得した。

世論調査に基づけば、両会派の議席は20から30程度増加するとみられ、議席割合は全体の20%弱になる見通しだ。このようにポピュリズム政党出身の議員の増加は避けられないが、一方で大多数の有権者はそうした政党から距離を置いている。そのため、最多会派である中道右派のEPPが最多会派の座を維持することは確実な情勢である。

ポピュリズム政党は、EUが制限する各国の主権、例えば経済対策や移民対策などの自主権を回復することを訴えている。自らの税金を他国のために使いたくないし、移民の受け入れも制限したいというわけだ。内向き志向に基づく彼らの主張は、欧州の政治が第二次世界大戦以降築き上げてきた国際協調路線の放棄と、経済の繁栄をもたらしたヒト・モノ・カネの移動の自由の否定につながる危険性を持っている。

独仏リーダーの求心力低下で反EU勢力に追い風が吹く

欧州議会での存在感は着実に高まるが、一方で今すぐ議会運営に混乱が生じるわけではない。もっとも、想定外にポピュリズム政党出身者が増加すれば、欧州議会の運営は停滞を余儀なくされる。こうした中で憂慮されるのが、ドイツとフランスというEUの二大国でリーダーの求心力が低下し、ポピュリズム政党に追い風が吹いていることだ。

まずドイツであるが、メルケル首相は地方選で敗北が相次いだことの責任を取り、与党キリスト教民主同盟(CDU)の党首を辞任する事態に追い込まれた。腹心のクランプ=カレンバウアー氏が後継党首に就任したことで首相職の辞任こそ免れたものの、メルケル首相は依然厳しい政権運営を余儀なくされている。

他方でフランスであるが、マクロン大統領の構造改革路線に対する有権者の不満が爆発した。11月下旬より首都パリを中心とする都市部で大統領の辞任を求める大規模なデモが生じ、一部が暴徒化して略奪・破壊行為を働いた。その結果、大統領は最低賃金の引き上げを急きょ発表するなど改革路線の修正に追い込まれた。

メルケル首相とマクロン大統領は並んで「メルクロン」と称される親EU論者だ。そのため彼らに対する有権者の不満は、おのずとポピュリズム政党に吸収される。ドイツでは地方選でポピュリズム政党「ドイツのための選択肢」の躍進が著しく、フランスでは「国民連合」のルペン代表が議会の解散を要求するなど勢いづいている。

この流れが5月の欧州議会選にかけて強まれば、ポピュリズム政党出身者の議席数が想定以上に増加することになるだろう。EPPの最多会派の座は揺るがなくても、第二会派である中道左派「社会民主進歩同盟」の苦戦が予想される中で、ポピュリズム政党出身者が急増し、議会を運営する上で無視できない存在感を示すことになるかもしれない。