記者クラブの抗議に「神妙に受け止める」と回答

この後、別の質問が1問出たが、それにはていねいに回答。最後に再び記者から「『次の質問、どうぞ』というふうに回答されていますが、公の場面の質問に対して、そういう答弁をされるのは適切ではないんじゃないでしょうか」と問われると。河野氏は再び厳しい表情に戻り「交渉に向けての環境をしっかり整えたいというふうに思っております」と言い、会見を終えた。

会見後、外務省記者クラブは会見での誠実な対応を申し入れ、河野氏は「神妙に受け止める」と回答した。

ロシアを刺激するのを恐れ「だんまり戦術」を続ける

河野氏が、記者の質問を「拒否」する理由は、分かりやすい。自身の発言でロシア側を刺激し、領土交渉にマイナスとなるのを避けたのだ。

日本国内では、安倍首相とプーチンロシア大統領の間で「平和条約締結後に歯舞、色丹両島を日本に引き渡す」とする日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させることで合意したのを契機に「2島先行返還」への期待が高まっている。安倍氏も強い期待を持っており、うまくいきそうな場合は来夏の参院選に併せて衆院を解散して衆参ダブル選を視野に入れている。

ただしロシア外交はしたたかだ。プーチン氏と安倍氏は過去23回会談を重ね、人間関係を構築してはいるが、いつハシゴを外されるか分からない。実際、記者団の河野氏への質問にあるように、ラブロフ外相らが盛んにけん制球を投げている。

これに対する日本政府の対応は「だんまり戦術」だ。いちいち反応して相手を刺激するとろくなことはない。安倍氏は国会で野党議員から「北方領土がロシア(ソ連)に不法占拠された」という従来の政府見解の確認を求められても「いちいち反応するのは差し控えたい」などと慎重な答弁を貫いている。そのあたりのことは「安倍首相は"改憲"から"領土"に乗り換えた」を参照いただきたい。

せめて「答えは控える」と答えていれば

河野氏の発言もこの流れからきたものではある。それは分かるのだが、それにしても、ひどい対応と言わざるを得ない。例えばゼロ回答でも「政府の方針は変わりませんが、現在非常に敏感な時期ですので答えは控えさせてもらいます」と答えていれば大きな問題とならなかっただろう。

「次の質問、どうぞ」の4連発は、会見という場を通じて国民に説明責任を果たそうという姿勢を放棄したことになる。

安倍政権では、首相らが質問の趣旨をはぐらかす「ご飯論法」を使い、菅義偉官房長官ら閣僚は記者団の質問に対し「そのような指摘は当たらない」というように突き放した回答を連発するなど、説明責任を果たす意識が薄い。河野氏の対応はその中でも最たる例となった。