「働いても生活が良くならない」という考えになる
可処分所得が増えていない背景には、勤め先などから受け取る実収入(税金を支払う前の収入)が増えていないことがある。それは、働いても生活が良くならないという考えの一因だろう。
それに加え、高齢化の進展等から家計が負担する社会保険料(公的年金保険料と健康保険料)は増加している。今後、社会保障制度の持続性を高めつつ財政再建を進めるために、国民の負担は増える可能性がある。消費税率の引き上げはその一つだ。
そのため、社会全体で将来に対する不安心理が強まり、支出よりも節約や貯蓄を優先する人が増えているのだろう。この結果、経済全体での需要が増えず、デフレ経済(広範な物価が持続的に下落する状況)からの脱却が実現できていない。
人々が「ほしい」と思える商品が生みだせていない
可処分所得が増加していない最大の原因は、わが国企業が、人々が「ほしい」と思うようなモノやサービスを生み出し、高い収益を実現できていないことだ。
1990年代初頭の資産バブル崩壊以降、わが国の企業はどちらかといえば守りを重視した経営を行ってきたと考えられる。2017年度の法人企業統計を見ると、わが国企業の内部留保(利益剰余金)の額は507兆円に達した(金融業、保険業を含む全産業)。これは前年度から10%の増加だ。多くの家計が将来への不安などを理由に消費を抑制し、貯蓄を増やしている。同様の心理が企業の経営にも確認できる。国内の企業は、投資などを積極的に進めて新しい取り組みを進めるよりも、手元に現金をため将来へのリスクに備えることを重視しているといえる。
この状況を打破するためには、人々のほしい気持ちを高める最終製品などが生み出されればよい。アップルのiPhoneはそのよい例だ。iPhoneはスマートフォンの普及につながっただけでなく、SNSやクラウド・コンピューティング・サービス、動画視聴などさまざまな需要の創造に波及効果をもたらした。
それは、リーマンショック後の米国の経済成長を支えた要因の一つだ。また、スマートフォンは、中国経済の回復と安定にも無視できない影響を与え、わが国の景気回復を支えてきた。