自分にしかできない仕事をつくる
もう一つ、チャンスを渇望していた時期に私が心がけていたのは、「かかってきた電話は必ず取る」ということでした。なにか突発的なニュースが飛び込んできた時、もしかしたら私の順番が回ってきて、電話が鳴るかもしれません。そんな時、すぐに「行けます!」と言えるように。
いつでも着信を逃さないよう、レストランで食事をする時は地下の店を選ばず、シャワールームにも電話を持ち込んでいました。もちろん、寝る時には枕元に置いて、電話を常に離さないよう心がけていたのです。
そして、諦めずに言い続けていました。「私を現場に行かせてください」と。
いざという時のために、いつでも動ける気構えを持ち続けた私ですが、一方で「そうはいっても、重大なニュースで私が最初に呼ばれるようになるなんて、そんなに簡単なことではない」ということも、よく分かっていました。
国際報道の第一線に立つのは、すぐには難しそうだ。
だとしたら、なんとかして「私にしかできない仕事」を見つけよう。
「小西さん、ぜひ行ってください!」「この仕事は、小西さんでないとダメなんです」。
そう言ってもらえる仕事を自分で見つけようと考えたのです。
けれど、それはどうやったら見つかるのか……。
あるイケメンとの出会い
焦燥を抱え、日課の情報収集として地元のタブロイド紙に目を通していたある日のことでした。毎日のように紙面を飾るイケメンがいることに気づきました。調べてみると、彼がプレミアリーグ3連覇を遂げた、名門サッカーチームの中心選手であること、結婚したパートナーは世界的に人気のある歌手で、かわいい子どもがいることが分かりました。
彼の名前は、デビッド・ベッカム。
時は日韓共同開催のワールドカップ前のこと。今ほど日本でサッカー人気が広がってはいない頃のことです。ベッカム選手の存在は、当時の日本では一般的に知られていませんでした。
私もサッカーをよく観ていたわけではなかったので、彼のことはこの時、初めて知りました。けれど、甘いマスクと豊富な話題性に「この人、日本でも人気が出るかも!」とピンときました。
先ほど書いた通り、私は「すぐにリポートできて、お茶の間受けしそうなネタ」を意識的に集めていました。ベッカム選手に関するリポート素材をまとめるため、週末を利用してはサッカーの試合に訪れて映像を撮ったり、彼の生い立ちを知れる本を読んでエピソードを集めたりして、準備を始めていきました。
「緊迫する国際報道の現場に立ちたい」という理想とはほど遠いと思われるでしょうか?
もちろん、その希望はずっと持ち続けていました。けれど、私は受け身で待つだけでは我慢できなかったのです。
とにかく、動く、動く、動く! 今できることを、自分で探して。
スポーツの中でも特定の選手にスポットを当てる「柔らかめのネタ」で成果を上げたとしても、ほかの誰かの実績を邪魔しないだろう、という推測も立ちました。
なによりその時、私はどんなテーマでもいいから、私にしかできない仕事を見つけたいと渇望していたのです。老若男女、いろんな人が集まるスタジアムに通うことで、リアルなイギリス社会の縮図を目の当たりにすることも多く、勉強にもなりました。