ストーカーをやめさせるには治療が必要

――警告したり、罰したりするだけでは、本当の解決にならないのですね。

そこが問題です。2000年に、ストーカー規制法ができたのは本当によかったですが、相談や対応する機関が警察しかないというのは、やはり不十分だと思います。

ストーカーには「犯罪性」と「疾患性」という、2つの側面があります。ストーカー規制法という法律ができて警告や処罰ができるようになりましたが、「疾患性」という側面はまだ十分には理解されていません。ストーカー対策のゴールは、加害者が無害になることだと私は考えています。ストーカーは、被害者への過剰な関心を持ち続けるという病態であり、それをやめたくてもやめられない場合は疾患です。無害になるとは止められるようになることで、そのためには治療が必要です。

重要な課題は、どうやって治療に結び付けるか、どういった治療に結びつけるのかの2つだと思います。治療命令が出せない日本の司法においては、ストーカー規制法の警告が出た段階で、都道府県公安委員会が認定するカウンセラーが、警告を受けた者と面談することを義務付ける法改正や条例を作ることができないかと考えています。警告を受けただけでは心理的な危険度が下がらない加害者が多く、危険度を把握でき、感情の処理、立ち直りのサポート、医療に導入する会話ができるのは警察官ではないと思うからです。

――警察が、治療のための相談窓口にはなりえない?

本当は警告を受ける前に、加害者やその家族が相談できる場所があると良いのです。加害者側は取り締まりを行う機関には、なかなか相談には行けません。取り締まり機関と医療機関の連携、役割分担が必要だと思います。例えば、薬物依存症の問題は保健所に相談窓口がありますし、児童虐待は児童相談所、DV(ドメスティックバイオレンス)は配偶者暴力相談支援センターなどがあります。そうした専門窓口がストーカーに関してはありません。ストーカー行為がエスカレートする前にカウンセリングと医療機関の情報を得るだけでも道が開けてくるでしょう。

被害者を傷付けたくなるほどにストーカー行為がエスカレートする前の、初期の段階で、被害者だけでなく加害者も相談できる仕組みを作るべきなのです。エスカレートする前であれば、カウンセリングなどで対処できます。

加害者の親や周囲は一人で抱え込まない

――ストーカーの加害者が、自分から相談に行くことは少ないと思いますが、周りの人が気付くことはありますね。

親が、「息子/娘がストーカー行為をしているのではないか」と気付くことはよくあります。警察に相談には行きにくいかもしれませんが、多くの警察は医療機関と連携しているので、どの病院に行ったらいいか、情報を教えてくれるはずです。法テラスでも情報を得られると思います。医療機関やカウンセラーのところに連れていくのもいいですが、本人が抵抗するでしょうから難しいかもしれません。本人に影響力を持つ人に相談して、カウンセリングに行くよう説得してもらうとよいでしょう。

また、ストーカーは、自分が被害者だと思っていることが多いので、「それなら一度弁護士のところに相談に行こう」と言って、弁護士に相談しに行くのもいいでしょう。対応の過程で、治療を受けるよう話してくれる弁護士もいます。弁護士会でも最近はストーカー問題に熱心に取り組んでくれています。

――もしストーカーの被害にあった場合は、どうしたらいいでしょうか。

とにかく一人で抱え込まないことです。警察や法テラス、自治体のDV相談窓口などに相談してください。被害者は、「自分が悪かったからではないか」と自分を責める人も多いですが、そんなことはありません。過去がどうであれ、違法行為の被害者にならなくてはならない道理はありません。

小早川明子(こばやかわ・あきこ)
NPO法人「NPOヒューマニティ」理事長
1959年生まれ、中央大学文学部卒業。ストーカー問題、DVなど、あらゆるハラスメント相談に対処している。1999年に活動を始めて以来、500人以上のストーキング加害者と向き合い、カウンセリングを行う。著書に『「ストーカー」は何を考えているか』(新潮新書)、『ストーカー -「普通の人」がなぜ豹変するのか』(中公新書ラクレ)など。
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