食べた人は「まったくクセがない。驚いた」
7月下旬の夜、東京都内で「クジラ肉」の缶詰の試食会があった。主催は宮城県石巻市に本社がある木の屋石巻水産(以下、木の屋)。同社の缶詰を用いた料理が次々に提供された。
このうち参加者から「牛肉のような柔らかい味」という声が上がったのが、「長須鯨 須の子 大和煮」だ。1缶150グラムで、価格は1080円(税込み)。須の子とはアゴから胸にあたる部分で、よく脂がのった希少部位だ。これを砂糖と醤油、生姜などで煮つけている。試食会に同行した編集者も「まったくクセがない。驚いた」と興奮気味だった。
かつてクジラ肉は日本人の貴重なたんぱく源だった。中高年では「クジラの竜田揚げ」を給食で食べたという人も多いだろう。だが、当時のクジラ肉はあくまで代用食で、美食のための商品ではなかった。今回の試食会のような反応は、当時は考えられないだろう。
「アイスランド産」のクジラ肉を扱う理由
この缶詰の原材料は、大型の「長須鯨(ナガスクジラ)」でアイスランドが捕獲したものだ。 IWC(国際捕鯨委員会)を1992年に脱退し、2002年に復帰したアイスランドは、IWCの認定を受けて商業捕鯨を行っている。同国から正規に輸入されたナガスクジラを使った缶詰なのだ。
木の屋では、日本で獲れたクジラも原材料として使っている。だが、ナガスクジラは人気が高く、需要に対して供給量が足りないのだ。
現在の日本で、手に入るクジラ肉には次の3ルートがある。
(2)「調査捕鯨」のクジラ肉
(3)「小規模沿岸捕鯨」のクジラ肉
(1)は、アイスランドやノルウェーなど商業捕鯨の認められている国から輸入したクジラ。(2)は、日本の調査捕鯨船が獲った鯨だ。日本は商業捕鯨ができないが、調査などのために一定数のクジラを獲ることは認められており、調査捕鯨の副産物として国内で利用される。(3)も、日本で獲れたクジラだ。国内では和歌山県・太地町、宮城県・鮎川(石巻市)など捕獲可能地域が5カ所あり、ここでは「ツチクジラ」など小型のクジラの捕獲が水産庁から認められている。ただし種類や頭数には厳しい制限がある。