「君には大いに期待しているよ」を鵜呑みしない

転職した当人が、「転職先の社長の建前と本音」に気づかない、という失敗パターンもある。「君には大いに期待しているよ」という言葉は、決して「好きにやっていいよ」という意味ではない。

「大企業からオーナー企業への転職の場合、社長の顔色ばかりうかがって動く、いわゆるヒラメ文化が定着している会社も少なくありません。そういう環境で、サラリーマン会社でのキャリアを活かして、何かを変えようと頑張ると、即座に疎んじられます」(三上氏)

「張り切って、これまでにない新規事業を勝手に立ち上げたりする。すると社長は『彼がいなくなったら、この事業はどうなるのか』と不安になる。役職付で経験があっても所詮は新人。そこまでの信用はないのですよ」(海老氏)

このような自滅を招かないためには、あらかじめ採用側が求める役割、与えうる権限や裁量の範囲を明確にしておくことが大切だと三上、海老両氏は口をそろえる。

「60代、定年を機にしての転職で、採用側が最も気にかけるのは、実務ができるかどうかです」と三上氏。コピーを取れない。メールやワープロの文書づくりで部下の手を煩わす……これでは、周囲の負荷が大きくなる。

「もっと困るのは、大企業から中小への転職で、部下に指示するのが仕事だと思っているような方です。大企業は組織として充実していますから、それでも仕事になりえます。しかし、少ない従業員が1人で何役もこなす中小企業では、どうにもならない」(三上氏)

前職との比較や批判、「教えてやる」という上から目線、風土を無視した張り切りすぎ……失敗パターンに共通するのは、謙虚さの欠如であるようだ。

「何事も一期一会と思い、新しい職場では部下に教わる姿勢が大切。一期一会は『場所を選ばず、人を選ばず、時を選ばず』です。これは、転職者の振る舞いとしてすべての世代で共通することです」(海老氏)

そして受け入れる側にも、同様に転職者を思いやる気遣いが必要だ、と海老氏は言う。転職の失敗は、転職者側にのみ原因があるのではない。互いに気持ちよく仕事ができ、力を発揮できる振る舞いと環境づくりを心がけたい。

▼プロからの助言
1:転職先の入社日先送りはNG
2:歓迎会“食べすぎ、飲みすぎ、しゃべりすぎ”に注意
3:20代○自分の仕事を“見える化”せよ
4:社内の転職経験者になじみ方を聞け
5:30代○改善の提案はなじんでから
6:40代○上から目線のコンサルはアウト
7:50代○「社長の建前と本音」に気づけ
8:60代○やるべきは指示より“実務”
9:「オレはお目付け役」のカン違い

海老一宏(えび・かずひろ)
アクティベイト社長。
1957年生まれ。メーカー・人材紹介会社勤務などを経て2005年独立し現職。200社以上に人材紹介。著書に『40歳からのサバイバル転職成功術』ほか。
 

三上俊輔
ジーニアス社長。
1983年生まれ。2006年、早稲田大学法学部卒業。ヘッドハンティング業のサーチファーム・ジャパンから11年にジーニアスを分社化・設立し現職。
 
(撮影=小原孝博、加々美義人 写真=iStock.com)
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