財務諸表から、何を読み取るのか

そうした「入りと出」の動きを整理する会計の手法が、いわゆる「複式簿記」だ。その歴史は古く、地中海貿易で繁栄した13世紀初頭から14世紀末のイタリアの商業都市で誕生・発達した。そして同国の数学者であるルカ・パチオリが1494年に著した『スムマ』で、簿記を初めて学術的に説明したことから世の中に広まり、かのレオナルド・ダ・ヴィンチも愛読していたという。

そんな古の叡智を集めた会計を、活用しない手はないだろう。わかりやすい解説で定評のある経営コンサルタントの小宮一慶さんも、「経理担当者でなければ、決算書をつくれるようにならなくても構わない。しかし、本気で経営幹部を目指そうとしているのなら、決算書から会社の現状や問題点を読み込めるようになる必要がある」と指摘する。

では、猛勉強しなくてはならないのだろうか。小宮さんは首を横に振りながら、「そういう私も会計の勉強を始めたのは、新卒で銀行マンになって4年目からのこと。それもほぼ独学だった。会計の入門書に繰り返し目を通し、貸借対照表から会社の『安全性』、損益計算書からは『収益性』、そしてキャッシュフロー計算書から『将来性』などを、最低限読み取れるようにすれば、それで十分なのだ」と話す。

算数と国語をつなぎ、数字の裏側を解明

公認会計士の川口宏之さんは「会計センスを身につけていく近道は、日々のニュースで取り上げられる企業の決算書をひもとき、事の起こりなどについて自分なりの『仮説検証』を繰り返していくことだ」という。とはいえ、具体的なヒントが必要なはず。そこで、最近の経済ニュースのなかから特に話題になった事例をピックアップし、会計の視点で小宮さんのいう「安全性」「収益性」「将来性」などを分析・検証した。

たとえば、使用期限切れの鶏肉問題などで顧客離れが起き、2期連続の赤字が続いていた日本マクドナルドHDがV字回復した要因を「損益分岐点」という指標を用いて分析しつつ、気になる採算改善のセオリーを探っている。

そして最後に、公認会計士の山田真哉さんが、決算書を読み込んでいく際の重要な点についてアドバイスしてくれた。

「決算書に出ている数字は定量的な『算数』の世界で、それだけでは無味乾燥で物事の本質は掴めない。そこで大切なのが、数字の裏づけとなる定性的な『国語』の世界。マクドナルドは14年8月に全店禁煙にして、一時は客足が遠のくと懸念された。しかし、実際に店に行くとファミリー層で賑わっており、これが売上増につながっているとわかる。こうした算数と国語をつなげることで、他のケースにも応用可能な生きた会計情報を読み取れるようになる」

そういわれると、いままで敬遠しがちであった会計が、身近で役立つものに思えてはこないだろうか。

林 總(はやし・あつむ)
公認会計士
外資系会計事務所、監査法人勤務を経て1987年独立。著書に『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』など。
 

小宮一慶(こみや・かずよし)
経営コンサルタント
1995年に小宮コンサルタンツを設立し、代表取締役会長CEOに。著書は130冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。
 

川口宏之(かわぐち・ひろゆき)
公認会計士

会計コンサルティング業務や、会計理論をわかりやすく伝える研究・講演を行う。著書に『決算書を読む技術』など。

 

山田真哉(やまだ・しんや)
公認会計士
中央青山監査法人などを経て、現在は芸能文化会計財団理事長を務める。『女子大生会計士の事件簿』など著書多数。
 
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