当たり前だが、企業が成長を続けていくには、人が大切だ。金融や法律の専門知識と経験、海外市場の開拓に関するノウハウ、各国の労務管理に習熟した専門家を登用するには、それなりのコストがかかる。特に、周囲から「彼は優秀だ」と評判のある人に来てもらうためには、どうしても競争力のある報酬を支払わなければならない。

優秀な人材の確保は死活問題

今後の成長を考えると、わが国の企業は新興国を中心に、海外進出を強化しなければならない。だが海外の市場でわが国の発想は通用しない。たとえばシンガポールで企業を経営する友人は、「競合相手よりも給料の水準を高くしておかないと、すぐに転職されてしまう。日本と違い、人材の確保には給与の引き上げが欠かせない」と話していた。

わが国の企業は、役員だけでなく従業員全体の報酬の水準を真剣に考えるべき時に来ている。役員報酬が低い時点で、企業は競争劣位の状況におかれていると考えたほうが良いだろう。イノベーションを発揮して、新しいヒット商品などを生み出すためにも、各国に比べて見劣りしない報酬を支払い、優秀な人材を確保することはわが国企業全体の死活問題といえる。

欧米では外部から経営の専門家を登用するのは当たり前

国内企業の役員報酬の低さは、わが国の企業文化・制度に起因していると考える。日本企業の多くが、新卒一括採用、年功序列、終身雇用の人事・雇用制度を重視してきた。この制度が組織に属する人々の生き方、つまり文化をはぐくんだ。

具体的には、上司に盾突かず、ミスをしない人が評価され、昇進する人事評価のシステムが維持されてきた。これにもとづいて、昇進を重ねた社員が経営者に登用されてきた。その人物はゼネラリストであり、社内の利害調整には長けているだろう。しかし、その能力が、株主価値を増大させるとは限らない。