同時に、経営者の能力や成果を客観的に評価し、必要に応じて是正を行うための制度を機能させることも欠かせない。取締役会には経営者を交代させる権限も付与されるべきだ。責任を全うできない経営者を淘汰するのである。それが、コーポレートガバナンス=企業統治の強化だ。
東芝の巨額損失、神戸製鋼所による品質検査データの改ざんなど、企業は常に合理的に行動するとは言えない。特定の人の影響力が強くなりすぎ、論理ではなく、感情などによって経営が左右されてしまうこともある。金融庁などがコーポレートガバナンスの強化を目指しているのは、不正などを防ぎ、市場原理に則った経営が行われるように仕向けたいからだ。
経営者を客観的に評価できる「指名委員会等設置会社」
求められるのは、各企業が企業統治の理論を自社に当てはめ、実践していくことだ。わが国の会社法では、企業のガバナンスについて、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社という3つの形態を定めている。
現状、上場企業の75%が監査役会設置会社を選択している。この形態では、取締役が業務の決定・執行・監督を行うため、監査機能は発揮しづらい。これに対して、監査等委員会設置会社とは取締役3人以上(過半数は社外取締役)で構成する監査委員会等を置き、監査機能の強化を目指した形態だ。
より望ましいのは、指名委員会等設置会社だろう。過半数を社外取締役で構成する監査・報酬・指名の各委員会を設置する形態で、各委員会が経営者を監督するため、理論上、規律が働きやすい。これは経営者の手腕を客観的に評価し、成果に見合った報酬を支払うためにも有効な統治形態だ。経営者の事業環境の認識が妥当か否かを確認し、より良い経営戦略の執行を目指すためにも、指名委員会等設置会社に移行し、その機能を発揮する企業が増えるとよい。
米中貿易戦争への懸念から世界経済の先行きは不透明になっている。中国株の下落など、投資家はリスク回避姿勢を強めている。そうした不確実性が高まる中で経営者が成長をめざし、相応の評価を得るためにもガバナンスの強化は必要だ。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。