「この間、ミドリムシが来たよ」「あっ、うちにも来た」

私がそうやって大企業をまわるから、経営者たちのゴルフなどで「この間、ミドリムシが来たよ」「あっ、うちにも来た」と話題になる。もし地味な服装の銀行員が「これから円高・ドル安に向かいます」と当たり障りのない話を説明してまわっていたら、誰も話題にしないでしょう。私たちのプロジェクトにはいまや全日空、いすゞ自動車、千代田化工建設、伊藤忠エネクスといった名だたる企業が参画しています。これも私が率先して恥をかいたから。本当に自信があるならば、自分から恥をかくつもりで臨めば必ず味方ができます。

こう話すと「自分もプレゼンしてまわったけど全然ダメでした」と言われることがあります。それで何社ぐらい訪問したかを尋ねると、たいてい5社や6社で諦めています。私はこの仕事を始めて最初の2年間で500社をまわりました。まだ誰もミドリムシのことを知らない頃ですから、門前払いが当たり前です。私だって恥をかくのは嫌ですから、心が折れそうになったことは何度もあります。

そういうときに帰りの電車でカバンから取り出すのが、お客さまから初めていただいた一枚のファクスでした。「ミドリムシを飲み続けて健康になりました」という感謝のお手紙です。原本はすぐボロボロになるから、何度もコピーしてクリアファイルに入れて持ち歩きました。

出雲社長が心の師と崇めるムハマド・ユヌスさんとの2ショット写真。いつも持ち歩き、味方を増やすために恥をかくのが辛くなったとき、何度も見返すのだという。

このファイルはいまも必ずカバンに入れていますが、私に元気をくれるアイテムはその後どんどん増えました。501社目に訪問した伊藤忠商事が出資してくださったあとは、同社から最初の振り込みがあった銀行通帳のページをコピーして持ち歩くようになりました。最初は振込金額の書いてある受領証を持ち歩いていたのですが、感熱紙で次第に紙が変色してきてしまったので、途中からは通帳のコピーに切り替えたのです。

ノーベル平和賞を受賞した経済学者のムハマド・ユヌスさんと撮った2ショット写真も元気アイテムのひとつです。ユヌスさんは77歳になった現在も世界から貧困と失業とCO2排出をゼロにするために頑張っている。寝る間を惜しんで活動されている。それなのに、30代の自分がへこたれている場合じゃない、と思うのです。お客さまからのファクス、通帳のコピー、ユヌスさんとの写真は、1年365日、海外出張でも肌身離さず持ち歩く“三種の神器”です。