4年前にやられた「可変システム」で数と空間を優位に

そこで日本は各々の位置取りを変えながら、セネガルのワナをかいくぐっていく。ボランチの長谷部誠が最後尾に落ちて、長友佑都と酒井宏樹の両サイドバックが高い位置へ移動する。4-2-3-1から、3-3-3-1へシフトする「可変システム」の運用だ。

セネガルの両翼はサイドバックをマークするため、生真面目に後方へ下がっていく。これで目障りな相手は、1トップと2人のインサイドMFだけ。日本は変則の3バックと手前につける柴崎岳の4人で「数と空間」の優位を生かしながら、落ち着いてパスを回していった。

吉田麻也と昌子源の両センターバックが左右に大きく広がってボールを持つと、セネガルの両翼は対応に困る。センターバックに寄せればサイドバックがフリーとなり、サイドバックのマークを優先すると、そのままセンターバックにボールを運ばれてしまうからだ。

何のことはない、4年前のブラジル大会初戦で日本がコートジボワールにやられた「手口」と同じである。当時、これで一気にマークが混乱した日本はいとも簡単に左サイドを崩され、1-2と逆転負けを喫していた。

もっとも、その「教訓」を生かした――と言っては話を盛りすぎだろう。監督・スタッフと選手たちがトレーニングやミーティングを重ねるなかで、したたかに準備したものだ。おそらく、セネガルとの初戦でポーランドが後半から3バックに変更し、敵陣へ押し込む時間を増やしていたことも「織り込み済み」でトライしていたはずである。

本田以上に「もっている」のは西野監督かも

ただ、漫然とパスをつなぐだけでは、得点にならない。どこかで変化をつける必要がある。その三要素が『角度・距離・緩急』だが、ここで柴崎が重要な役割を担っていた。

象徴的だったのが34分の同点ゴールだ。

GKの川島永嗣からビルドアップが始まって最終的に乾貴士がゴール右隅へ蹴り込むまで、計11本のパスがつながっている。そこで巧みに相手の目先を変えたのが柴崎だった。

ハーフウェーライン付近から一気に敵陣左奥へ対角パスを送り込む。前後左右から斜めに、ショートからロングに、緩から急に――。例の3つの要素を満たす会心のパスが、ライン裏へ走る長友の足元に吸い込まれていった。そして後方からフォローに入った乾へ長友から11本目のパスが送られて、セネガルのゴールネットを揺らしている。

日本の粘っこいポゼッションは、セネガルのアタック陣を縦横に走らせ、体力を削り取ってもいた。そして、時間を追うごとに敵のプレスが弱まり、さらにパスワークが生きる好循環。71分に右サイドを崩されて、2点目を与えたものの、セネガルの消耗は激しく、日本に反撃する余地は十分にあった。

そして、失点直後に本田圭佑を、さらに岡崎慎司を投入。2トップ(4-4-2)へシフト変更し、本田の同点ゴールを呼び込んでいる。失点から、わずか7分後のことだった。

一連の攻撃は、岡崎のプレスで後ろにボールを下げさせ、GKのクリアを敵陣で拾ったところから始まっている。交代出場の2人が、反撃の「始点と終点」を担ったわけだ。

本田はアジア人初の3大会連続ゴール。しかも、アフリカ勢相手にことごとくゴールを奪う相性の良さを見せつけた。結果論と言えばそれまでだが、とっておきの切り札を勝負どころで使う西野采配がまたもや的中した格好だ。ある意味(強運を)もっているのは本田以上に西野監督なのかもしれない。