この2つの学部は2016年4月に新設された。解雇の方針を打ち出した時、2つの学部を統括する三軒茶屋キャンパスの事務局長兼事務取扱は田中理事長だった。非常勤講師に解雇を言い渡した説明会の通知文書に、田中理事長の名前が載っている。15人の解雇と「丸投げ」や「偽装請負」という違法行為について、田中理事長は認識しているはずだ。
田中理事長と人事の責任者だった内田氏は、団体交渉に一度も出席していない。提訴前日となる6月21日の団体交渉にも姿はなく、内田氏の後任となる人事責任者も出席しなかった。大量解雇を実施するうえで、責任者は一切の説明を放棄しているのだ。
日大は本当に変われるのか
団体交渉を終えた夜9時過ぎ、会場から出てきた井上悦男さんは、あきれた様子でこう話した。
「正直なところ、アメフト部の問題で大学が批判され、内田さんが人事担当常務理事や人事部長をやめたことで、対応が少し変わるのではないかと期待していました。しかし、まったくそんなことはありませんでした。これまでの団体交渉ともつじつまがあわない、その場しのぎの説明が繰り返されました。誠実さを欠いています」
アメフト部の危険タックル問題でも、日大は内田氏と学生の証言の食い違いについて十分に説明していない。非常勤講師の大量解雇でも、解雇を行う理由や違法性の疑いについて説明していない。団体交渉が平行線で終わった後、井上さんは大学側に「人事の担当の方が変わって、これから皆さんとわれわれの関係は変わるんですか」と尋ねた。その回答はこうだった。
「信頼関係がないとそちらが言うのであればわかりませんが、われわれは変わらないです」
責任のとれない立場では、これが精いっぱいなのかもしれない。しかし、この団体交渉で、「信頼関係が作れる」と思えた講師はいなかった。
井上さんは、翌日の会見で、こう述べた。
「大学は、学生に本来法律を守らないといけないと身をもって示さないといけないのに、一部の方々が法律を破っているのは、学生に示しがつかないと思っています。教育機関として、正しい判断をしていただければと思います」
どれだけ批判を集めても、トップが顔を見せないまま突き進む。これが日大のいまの姿だ。講師たちは残念ながら、交渉の余地を見いだせず、法廷に判断を委ねるしかなかったのだ。
ジャーナリスト
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。